約 85,635 件
https://w.atwiki.jp/namu/pages/29.html
未使用SSの一覧 侵入SS ノーマ・リー まさかこんな時にお鉢が回ってくるとは思わなかった。 数匹の猫と共に走りながら、ノーマ・リーは溜息をついた。別に深刻な顔はしていないが、溜息だけは出る。別に不満も愚痴も出ないのだが、一種の癖のようなものだ。 ああ何で僕こんなとこにいるんだろ、てかいつの間に一人で侵入してんの僕。 「にゃー(今更、怖じ気づいたか)?」 「にゃにゃー(こいつ結構ビビリだしねえ)」 「ほっといて。てかまだビビリでも敵前逃亡してないから。チキンじゃないから」 「にゃうー(あんま変わらないって)」 「変わるよ?! てか五十歩でも百歩でも結構距離あるよ?!」 「「「にゃーにゃー(変わってない変わってない)」」」 『……漫才はそこまでにしてください』 溜息混じりに声を――というか思念を送ってきたのは、同道する猫たちではなく、遠くで話を聞いていたオペレーターの方だった。 『そろそろ作戦区域です』 「……了解」 「「「にゃう(了解)」」」 途端にシリアスになる空気。 ノーマも口当てを引っ張り上げ、改めて武器をチェックする。 目的地まではあと少し。相手は視線が合えば即死。緊張しないと言えば嘘にはなるが、侵入する行為そのものに、彼は一切の危惧を抱いてはいなかった。 なにしろこの男、運だけはいい。その証拠にあれだけ騒いでいたのに敵の包囲網にかすりもしていない。何より死ぬのはそれほど怖くない。 どうせ一度、国と一緒に消えかけた事がある命だから。 「これより、作戦行動に移ります」 『……武運を』 「ありがと」 小さく笑って。 そうして、彼は猫三匹と共に、走り出す。 医療支援 南無@るしにゃん王国 これで何度目だろうか、見えぬ戦況を思い描き七海は声には出さずに呟いた。 即席で用意された殆ど野ざらしと変わらぬ治療の場。 決して陽気の為などではない汗を拭う事も出来ぬ白衣、あるいはオペ服を纏う者達。 傷ついた兵士。血の香。漏れ聞こえる前線の気配。 コパイロットとして前線に出た事もあるが、戦場というのはそれがどこであっても同様の緊迫感に包まれる。 誰一人手を休める事は出来ず、足を止める事も出来ない、もしここでそれをする者がいればたちまち前線の死者が増えるのだ。 早く平和が来るといい、誰もが戦わず、この様な死との境界近くまで踏み込まず、生きていける世界が。 そんな、誰しも思っているだろうことを今更口にすることはなかったが。 外の景色が入り口を塞ぐ影によって遮られた。 小さな手術用テントの中にいることを思い出す。 今から自分はここに運ばれる重傷者を救わねばならない。 自分にしか出来ないことではない、だが、自分にできることだ。 この手に培った技術が有り難い。 以前戦場に出たときよりも、医療技術は向上している。 額を束縛する頭冠が、精神の集中を助けてくれた。 高位森国人、と自分が提唱した未知の知識、精神と言うべきか、それの発見によって、 今るしにゃん王国民は各々の分野での成果を高めることに成功していた。 何事もおこらない暢気な風土の中ではそれはまるで無敵の技術のようであったが、戦場に出ると必ずしもそうではないのを痛感する。 ぴっちりとした手袋をはめ、メスを手渡される。蒸した空気の中、患者の止まらぬ血液に塗れた肉を切り裂き、内から蝕む異物を除去する。 血管を繋ぐ。肉を繋ぐ。折れた骨を接ぐ。 これで何人目か、主な治療が終わると直ぐに次が来る。テント外に運ばれ、見えなくなった患者は生きているのか、 常ならば予測もつこうものだが、今は判断が出来ない。 (違う、思い出せる。まだ5人だ……もう5人か) 医者は自分だけではない。誰もが今手を尽くしている。息絶えようとする人々を救っている。自分が処置した数などたかが知れていた。 5人目の傷を塞ぐ。処置は衛生が徹底しきれないし、道具も少ない、だが縫い目は恐ろしく細かい。 この、今は意識のない人は恐らくまた戦場へ向かってしまうのだ、だからせめて強く、動きに少しでも馴染むように、正確に傷口を塞ぐ。 (落ち着け。必要とされている今、全力を尽くせなくてどうする) 一瞬乱れかけた集中力は直ぐに取り戻された。頭冠はこの人々の熱気を受けてなお、冷たい。 この力は誰の為のものだ、七海は自問する。既に今日幾度も自分に問いかけた言葉だ。 目前に意識のない男の身体が運ばれる。そうだ、今この瞬間からこの力の全ては彼の為のものだ。この処置が終わるそのときまで。 「手術開始します」 必要最低限の言葉を紡ぐ。スタッフが痺れる手を動かす。自分もまた消毒されたばかりの器具を手に取った。 夜明けは、訪れただろうか。 過る思考はたちまちの内に霧散する。 自身の戦場に再び没頭し始めた七海の耳に、外からの声はもう聞こえなかった。 指揮官ちゃき支援 ちゃき@るしにゃん王国 いつものことだった。 戦争の前には、ちゃきは部隊を見て回る。 さしもの新しくて一番でかいものに目がいく。 …これが、今回からはじめて使う未婚号… ちゃきは、その大きな機体をしげしげと眺めた。 魔道兵器としても使えるこの機体を見上げ、口元を緩める。 ついで、新しく導入された弓兵部隊 今回の目玉とも言える部隊であった。 未知数とは言え、サブ火力としては一級だと見ていた。 自らが率いる風の中心を探すもの達… 決戦は近い、部隊を見終わったちゃきは 満足した顔でそれらを見つめると部隊が見える小高い場所に立って部隊を見渡した。 ここに森国最強の布陣が出来たぞ この地上でもっとも戦車らしい戦車それは未婚号だった。 設計者の意図などどうでもよかった。 ちゃきは、その性能だけ見ていた。 詠唱技能によるその攻撃と防御は最強クラスだった。 さらに、そいつを二人でやるのだから燃費もよかった。 唯一の気がかりは、敵の特殊能力である根源力制限による死だった。 それは、世界解析でつぶしてしまおうと思っていた。 歩兵としての風の中心を探すものの露払いに 絶対的な火力と装甲の未婚号 まさに、戦車のコンセプトそのものだ。 さらに、サブ火力の弓兵… ちゃきは、持っていた杖で魔方陣を描く 青い燐光が体をつつむとまるで敵を捉えた様な目になる。 そして、全軍を見渡して 「さあ、見せてやりますか戦争って奴を。今までにないくらい見事にやれそうです。」 (…蹂躙、露払いに皆殺しか まったく戦争だな。いやだいやだ) クレール「どうしました?顔にやついてますよ」 ちゃき「いや、なんでもないですよ」 さあ行こうか、我らの力を見せ付けに…まもなく弓兵の許可される。予定どおりならば その時、一人の猫士が駆け込み静寂を切り裂く。 「で、伝令ですにゃ!」 「どうした?」 「弓兵の申請が延期となりましたにゃ」 「ばっ…分かった」 これが、人が伝令なら確実にぶん殴って司令官解任だ。まったくありがたい気遣いだ。多分、正義がつかわしだろう。天領に出向いて交渉までした結果がこれだというのに… 正義の心労はどれほどだろうか いや、考えるまい あるもので戦うだけだ。 それが、報いるということだ。 敵さんには悪いが、発散させてもらおう 声。 スゥ・アンコ@るしにゃん王国 「皆、兎に角何処でもいいから隠れて……ッ!」 敵の攻撃が間近に迫る中、誰かの声が聞こえた。 それが誰の声かを判断する余裕もなく、クレールは木の影になる位置へと隠れた。 すぐ傍の岩に誰かの影が見えるが、それを確認する余裕も、やはり現在は残されていない。 長い髪が敵の攻撃に揺れる。 ぴ。 攻撃による跳ね返りなのか、小さな小石がクレールの頬に当たり、小さな痛みに顔を顰める。 (ここで――……ここで、死ぬ訳にはいきません。) 愛しい人の姿を、心の中に描き出す。 彼に会うまでは、そう、絶対に死ぬ訳にはいかないのだ。 折角小笠原で掴んで手がかりを、己がここで倒れる事によって失う訳にはいかない。 「アイヤー。こんなの反則アルよ。どうしろって言うアルかーッ!!」 逃げ惑う誰かの声に、クレールは唇を開く。 「一刻も早く、遮蔽物に隠れてください! 敵の攻撃は強力、かつ、無慈悲です!…明日の為に、皆で生きのびるんです!!」 魔法使いの印でもある杖を強く握り締めて、敵の攻撃を耐え抜くべく、麗しき女性は、その声を部隊へと響かせた。 明日の皆の笑顔を勝ち取る為にも。 るしにゃんナイン はやて@るしにゃん王国 戦場独特の緊張感が、周囲を包んでいる。 後方配置の迎撃部隊とはいえ、敵が空から妨害を受けることなくやってくる可能性は高い。 そして空の敵の行動力は、歩兵のそれと比べれば大幅に高く、少なくともまず一撃は攻撃をくらう覚悟が必要だった。 なんとかこの戦場に送り込むことのできた弓兵アイドレスを身に着けた国民は、7名。 それに射撃目標の特定や距離の測定、その他知識面のサポートとして加えられた魔法使い2名を加えた9名が、I=Dの使えないこの戦場で頼るべき対空戦闘力だ。 その中で、いつ敵がくるか分からず、ただ待ち続けるという緊張感に飽きたのか、猫耳尻尾の少年がたん、と地面を踏み鳴らす。 「あーもう……待ってるだけじゃイライラすんなっ、前に出て先にヤツらに一撃ぶつけてやるとかできねーのかよっ?」 そんなはやての傍らで、黙って弓の点検を繰り返していたかみんは努めて気軽な声で肩を竦めた。 「まあまあ、焦らなくても敵は来るさー。万が一ここまで来たときのために僕らがいるんだし」 「そうアルよー、もっと余裕を持って構えるアル。戦場では焦りを見せた者からゴミのように斃れていく………って正義が言ってたアルよー?」 さらにその後ろから、お気楽そうな声でモノマネまでしながら話しかけてきたのはスゥ・アンコ。何故か腕組みを崩さないその姿勢が、胸元を隠すためだとは今のところ誰も気づいていない。 「お前それ絶対余計なコト付け加えてるだろ……? 大体別に焦ってなんか……」 はやてがそのモノマネの似てなさっぷりに脱力してからアンコに食ってかかろうとしたとき、その後ろから魔法使いの女性の声が響き渡る。 「敵、来ますっ!!それぞれ攻撃に備えてくださいっ、相手からの攻撃を避けきってから反撃に入りますから!」 全員が空を見上げる。そこからやってくる敵の姿。直後、間髪を入れずに来る攻撃。 それと同時に展開される、理力による障壁と魔法使いたちによる回避の"おまじない"。 一斉に散開する、世界忍者としての能力も備えた弓兵たち。 それは攻撃のみではなく、防御においてもその能力を存分に発揮しはじめる。 「誰もやらせませんよ……みんな、生きて帰ります!」 「来たアルねっ、弓兵のチカラ、とくと見せてやるアルっ!」 「おうよっ!! …そんなヘボ攻撃……食らってたまるかよぉっ!!!」 るしにゃん王国弓兵部隊、9名の戦いがはじまった。 詠唱攻撃SS 合作:はやて@るしにゃん王国 スゥ・アンコ@るしにゃん王国 南無@るしにゃん王国 今や敵は目前、こちらは装甲値も7という圧倒的無力、そもそもこの分隊、作成された時点で詠唱一撃勝負で行こうぜ!ってことだった、のはいいのだが。例によってタイトスカートなど着込んだ少年は軽い不安に呻いた。忍者一筋十と云年、今この手にある杖に自然の理に反するこの力を集束させる術はまだ不慣れなもので 「うう、無理ですようこんなの倒すとか!やっぱり回避できないでしょうか 」参謀モード、軽く臆病らしい。杖と魔術教本を抱え込んで涙目で後退った。 その傍にいる娘は、目の前にある圧倒的な戦力を前にしたにも関わらず、酷く呑気であった。いや、どんな時でもこの女性がペースを崩す、だなんて余程の事が無い限り、無いと断言して良いのだけど。くるくる、と軽やかに、明らかに本来の使用用途とは違う動きで、杖を回転させながら、比較的最近得た魔法の力を集中させていく。 「無理なんて事ないアルよー。ワタシの少林寺拳法的魔術で、あんなヤツら一発粉砕アル。」 色々と矛盾を感じてならない技の名前を口走りながら、臆病な――少女、のような少年に向かって、朗らかに笑った。全く、戦場に似合わない笑みだった。 2人とは少し離れた場所。敵との彼我の距離は未だ手の届く場所にはあらず。術を唱えることのできぬドレスを着用している身には、自分が何もできないのが歯がゆい。いらだつように地面を踏み鳴らせば、それに同調するように猫の尾がばたばたと激しく動いていた。目を細めて敵の様子を伺えば、普段より悪い目つきがなおいっそうのこと険悪さを持ち、余裕が少なさげに見えるのは少年くらいの年齢であれば仕方のないことだろう。気持ちを整えるようにふぅ、っと息をつくと、軽く瞳を細めて意識を飛ばす。森国人特有の、瞑想通信 「(………南無っ、アンコっ!あんなやつら、一撃でブチのめせよっ!手加減なんかすんじゃねーぞっ!!)」 「そんなこと言って、アンコちゃん私と大して力変わらないじゃないー、って、ま、待って、私も攻撃しますー」 半泣きで覚えたばかりの詠唱を…そこはそれ、忍者出身なので単純に物覚えは良かった…小さく唱えだす。まだ腰は引けているのだが。つい、位置もアンコの斜め後ろあたりまで移動してしまうのは臆病者の性だった。力を構築する過程でふっと割り込んできた、比較的親しい人の声がする。集中している為詳しく意味を捉えるまではできなかったが、それでも気持ちだけ、伝わったのか僅かに肩の力が抜けた。 「大丈夫、正義にたくさん教わったんだもの、わ、私負けるわけにはいかないですからー」 ほとんど、自分に言い聞かせる、類の物言いだった。 種族特有の手段で伝わってくる、少年の言葉に、ハン、と鼻で笑うように唇に笑みを浮かべる。手加減、だなんて単語こそ、己に似合わないものだと。 「任せておくアル。とっておきのをサービスしてやるアル。 ――南無とワタシじゃ、人としての器が違うアルよ。」 確かに、着ている職業も、アイドレスも一緒。根源力に若干の差はあれど、力に差は無い筈だ。正義――、この国にいる、オーマの名を聞けば、笑みはより深く唇に刻まれ。 「…あの、青いのを越える一発、くれてやる…、アル!」 杖を媒介にして、己の力が光となっていく。光を向けるのは、ただ、一つ。そう、目の前の敵に向かって 。 器レベルで言われて自分の人間性に欠片も自信のない少年は見事に落ち込んだのだが、逆に自分の立ち位置が明確になってほっとした風でもあった。所詮、下僕の属性、補佐と思い込んだ方がよっぽど力が出せる 「そうだよね!さすがアンコちゃん!よし、私もお手伝いするね…!」 急に前向きな、根っこは極端に後ろ向きな明るい声でそうのたまった。それが別働隊のはやてにまで届けばいい。多分届くだろう、俯き加減がなおったので。晴れやかな笑顔で思う。見ててください正義、私の晴れ舞台、待っててください王様、我等の帰りを、まあ死体かもしれないけど。集まりの悪かった魔力が杖先に一点に凝縮されて行く。 「私は、負けない。この力はその為に、得たのだから…」 ちょっと、声が低くなった。あるべき姿に戻ったのかもしれない 「欠片も残さぬよう、殲滅します!」基本、ろくでもない種類の方へ。 そして魔力の光が、弾ける。 「……あーっ、俺もハデな忍術とか使えりゃ……っ!!」 火炎とか、水流とか。くしゃくしゃと髪をかき混ぜると、額に巻きつけたバンダナがずり落ちかけ、慌てて位置を整える。と、返事の代わりか、魔法使いたちの詠唱が幽かに耳に入ってきた。聞きなれた仲間たちの声ではあるが、紡ぎだす呪文の響きは敵を前に普段より真剣に聞こえた気がした。ぎゅっと拳を握りしめ、瞳を見開いたその瞬間、自分たちの横合いを抜け、幾条ものまばゆい光が一直線に伸びてゆき、一つに束ねられて敵を射抜きかかる! 「っし、行けぇぇぇっ!!!!!」 オペレーターSS ノーマ・リー@るしにゃん王国 「……司令部、通信繋がりません」 報告のアナウンスをしながら、ノーマ・リーは頭を掻いた。 まあいつものことだとはいえ、戦闘には異常事態ばかり起こる。ろくでもない。本当にろくでもない。というか攻撃受けたんだろーか。 (そういえば、前にソーニャさんがナンタラノープルがどうこう言ってたっけ) 同国人――既に二人とも故郷を離れて久しいから、元同国人というべきか――が、少し前に話してくれたことを思い出して頭を掻く。 かなり昔の戦争の話だ。小回りの利く部隊に一挙に攻め入られて壊滅したやつ。分かり易くビジュアルで言うとクマと戦闘するより、虫の大群に襲われる方がヤバいみたいな、そういう話だった。 年貢の納め時。 そんな言葉が頭に思い浮かんで、首を振る。いかんいかん。それはよくない。精神衛生上めちゃよくない。 「―――どうしましょ?」 インカムを押えながら振り返ってみる。 そこには、現在の滞在国・るしにゃん王国の、それと知られた戦上手が集まっていた。やがて、中の一人――眼鏡も凛々しい今回の指揮官、ちゃきが肩を竦める。 「どうもこうもないな。既に敵はいるし、押し付けられそうな味方はいない」 「闘うしかない、ですか」 「そうなると思うよ」 「了解。――じゃあ、出来るだけのデータを集めます」 「そうしてくれ」 ここまで来たからには腹をくくるしかない。 既にここは戦場だ。味方もいて、敵もいて、戦端はいつ開かれるかも判らない。 なら、オペレーターはオペレーターの仕事をしよう―――
https://w.atwiki.jp/jyugoya/pages/531.html
SS分類/絢爛舞踏祭 「絢爛舞踏祭 in 青森」は儀式魔術/白いオーケストラの前振り。青森に、ヤガミ、舞踏子、ホープ、エステルがやってきていることが示された。のちに、火星の状況も提示されるようになった。 WR/2005/12/04 儀式魔術/絢爛舞踏祭開始 オープニング・セレモニー 一日目・昼 絢爛舞踏祭コース コースA 3日目・朝 絢爛舞踏祭ルート コースA 4日目・昼 絢爛舞踏祭ルート Aコース 5日目・昼前 絢爛舞踏祭ルート Aコース 7日目・朝 Aの魔法陣による大絢爛舞踏祭 A・G共同コース 8日目・夜 絢爛舞踏祭による大絢爛舞踏祭 A・G共同コース 9日目・深夜 絢爛舞踏祭ルート ボーナストラック1 Aコース 9日目・朝 絢爛舞踏祭による式神2 Aコース ボーナストラック 遠い日の思い出 12日目 浮上失敗 今日の原さん(4) 公休日明けの現状 13日目・浮上 13日目・浮上(2) 13日目・胎動 最終日の原さん(2) 最終日 再生 浮上3 戦闘詳報(1) 戦闘詳報5 戦闘詳報7 戦闘詳報9 一方その頃 TAGAMI・小カトー 戦闘結果&…… WR/2005/12/18 儀式魔術/絢爛舞踏祭終了 ボーナストラック ヤガミすぺしゃる BALLSボーナストラック ドランジ 絢爛舞踏祭 in 青森 絢爛舞踏祭 in 青森2 エンドボーナストラック 瀧川ホームラン(1段階目) エンドボーナストラック 瀧川ホームラン(2段階目) NOTボーナス 瀧川奮戦 エンドボーナストラック 瀧川ホームラン(3段階目) 式神3&瀧川ホームラン(打ち上げ) WR/2006/02/17 儀式魔術/白いオーケストラ前哨戦開始 BALLS ボーナス クリサリスの休日(前編) BALLS ボーナス クリサリスの休日(後編) NOTボーナス 居残り組みの歌 白いオーケストラ 世界の謎コースは、遅すぎたのか 白いオーケストラ・前哨戦 ライト板の奮戦 白いオーケストラ ライトパート1 WR/2006/03/06 儀式魔術/白いオーケストラ終了 BALLSボーナス 白いオーケストラのセラ 12月26日 ヤガミの死(白いオーケストラ・ダイジェスト) ヤガミ復活作戦(1) 敗者復活GAME その1 BALLSボーナス BL(陽子) 閉鎖世界・火星 カウンターアタックのはじまり NOTボーナス PS2版大絢爛舞踏祭 BALLSボーナス ヤガミ1/6 (1) ???(2) BALLSボーナス ヤガミ2/6 戻る→SS分類
https://w.atwiki.jp/bokurobo/pages/257.html
重電機人 バイラストームⅤ・SS 単発 プロローグ DBへ SS保管庫へ
https://w.atwiki.jp/tokimeki_dictionary/pages/66.html
Sumire Nozaki 野咲 すみれ【のざき すみれ】 『ときめきメモリアル2』に登場するキャラクターの1人で、3人いる隠し攻略ヒロイン(隠れキャラ)の1人でもある。 派生ゲーム『サーカスで逢いましょう』では主人公もつとめている。 プロフィール 人物紹介 その他 『サーカスで逢いましょう』 関連項目 プロフィール 誕生日 1985年3月1日 趣味 ラジオ体操(朝の日課) 星座 魚座 好きな物 サーカス 血液型 A型 嫌いな物 旅生活 身長 153cm 特技 空中ブランコ 体重 37kg 所属 タケヒロサーカスの団員 3サイズ B75 W49 H72cm (1年目) テーマ曲 ピエロのキモチ B76 W50 H73cm (2年目) 劇中歌 雲を追いかけて B77 W50 H75cm (3年目) 声優 本井えみ 人物紹介 タケヒロサーカスのアイドルで、『2』本編ではひびきの市に巡業に来た際に主人公と出会う事になるキャラ。 設定上、野咲のノリは「世界名作劇場」と「ひびきのウォッチャー」で公言されているだけあって、とにかく健気で困難にも笑顔を絶やさない。 (フリートークで本井えみさんも同じ趣旨の話をしている) 全国を巡業して回る彼女には友達が少なく、メガネザル(?)のデイジーはその数少ない友達の1人(匹)である。 そのデイジーを通して主人公は野咲と知り合う事になる。 彼女の父親がタケヒロサーカスの団長をしているが、彼も年々減っていく団員やお客に苦労が絶えないようだ。 なお、母親は彼女を産んで間もなく亡くなっているとの事。(ひびきのウォッチャーより) その他 プロフィールにある「劇中歌」とは、2年目(2回目)に野咲と会った時にすみれがひびきの高校中庭で歌っている曲のことである。(1コーラスだけ) オリジナル・ゲーム・サウンドトラックvol.2(ディスク1の36番目)または後述の『サーカスで逢いましょう』(エンディングテーマ曲)ではフルコーラスで聴ける。 どちらも手元にないが「今すぐ聞きたい」という方はこちら→http //www.youtube.com/watch?v=_cqHrDC8gl0 東日本大震災後の現在では「その歌詞は被災者の心に響く」という感想を述べた人もいる。 本編でも3月11日は偶然にも2年連続でサーカスを見に行くことが可能な日(=野咲と会える日)になっている。 『サーカスで逢いましょう』 上記の通りこのゲームでは主人公をつとめている。 彼女を操作して火の輪くぐり(ライオン、デイジーも操作)、ジャグラー(ジャグリングのこと)、綱渡り(所々デイジーも操作)の3種類のミニゲームをやることになり、 得点が規定数を超えれば陽ノ下光、八重花桜梨、麻生華澄、赤井ほむら、伊集院メイのPVを獲得することが出来るが、2人目からは規定点数が高くなる。 ジャグラーはまだしも、綱渡りは慣れないと結構難しいと思う。 関連項目 「野咲 すみれ」の攻略 野咲 ストレリッチア デイジー サーカス サーカスで逢いましょう
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/173.html
第二回戦【ジャンボジェット機】SSその1 1回戦終了翌日、大会本会場近くのホテルの一室。 “ケルベロス”ミツコたちは、早くも次の対戦相手の一人、猪狩誠の研究を始めていた。 テレビモニターには硫酸風呂から飛び出した猪狩が、儒楽第に連打を叩きこむシーンが映し出されている。 「…妙だな。」 画面を見ながら光吾はそう呟いた。 「まぁ確かにちょっと強すぎだよねー。」 内容とは裏腹に満子の言葉には気楽さが感じられる。 「それもだけれど、試合開始時の動きと違いすぎない?」 そう言って光吾は映像を試合開始時に戻す。 「あー。確かに言われてみると全然違うかも。」 「力を温存してたとするにもちょっと不自然な感じがしますわね。」 「うん。だからこれが彼の能力だと考えていいと思う。だとすると問題になるのは。」 「制約かー。」 「強い能力には必ず強い制約がある。これが猪狩さん攻略のカギになるということですね。」 「よーし、ミツゴ君。もっかい頭から再生!最初に見つけた人が今晩のデザート決定権ね!」 3人は真剣にビデオに見返す。しかし 「うーん。ダメだァ、何回見てもわかんないー。」 何度映像を見ても、猪狩が何かしら制約を払った様子は見つけられなかった。 「後払いか、何らかの条件を満たすタイプなのかもしれませんわね。」 「そうなのかもしれないね。それか、もしかしたら制約を支払ったのは彼じゃなくて……」 「どういうこと?」 「ううん、やっぱり考えるのは一旦やめにしよう。ちょっと休憩!」 光吾は気分転換に窓を開き、テーブルにおいてあった新聞を何気なく手にとった。 直後、一面の隅に小さく書かれていた記事に彼の目は釘付けになった。 「『ザ・キングオブトワイライト本試合会場で、8歳の男児が重症』」 「どうかなさいました?」 「見て、被害者の名前が『まさる』って書いてある。」 「あれ?確かそれってぇー。」 先ほど何度も繰り返し聴いた言葉。『まゆ、めい、まさる』 それは猪狩誠が発した言葉だったではないか。 これは偶然ではない。彼の……光吾の探偵としての勘が、そう告げていた。 「この子の居る病院を訪ねてみよう。もしかしたら猪狩の能力の手がかりが、つかめるかもしれない。」 ……数日後、彼らは確信する。 猪狩誠の能力の真の力と、その恐ろしさを。 --- 第2回戦試合場、ジャンボジェット機。 普段は多くの旅行者を安全に、速やかに運ぶそれは、 この時、3人の魔人たちが死力を以って闘う、鉄の棺桶となる。 試合場に転送された猪狩はまず、窓の外を見て驚きの声を上げた。 「これが飛行機って奴かぁ……。話には聞いてたけど、本当に飛んでんだな。」 彼が驚くのも、無理はない。 核やパンデミックの影響で今の世界では飛行機は殆ど飛んでいないのだ。 もっとも、飛んでいたとして、それに乗る金銭的余裕など今までの猪狩にはなかったわけだが。 (立ってるだけでも変な感じがする……。揺れてたりするし、なんか落ちつかねえなあ。) 初めての飛行機に、少しばかり不安を抱きながらも、猪狩は敵を探し始めた。 本来三つ巴ならば、一度身を隠すなどして、残る二人が潰しあうのを待ってから、漁夫の利を狙うのがセオリーだ。 しかし、今回の相手には“ケルベロス”のうちの一人、光吾……すなわち手芸者が居る。 手芸者は直接の戦闘に長けるだけではなく、罠や不意打ちなどの搦め手を用いる事が多い。 放っておけばそれだけ罠を仕掛けられるだろうし、不意打ちされる確率も上がる。 また、猪狩は1回戦で、優勝候補筆頭であった儒楽第を、真っ向勝負で下している。 ミツコと冷泉院が彼を警戒し、手を組む事も考えられる。 故に、時間を与えればそれだけこちらは不利になる。猪狩はそう考えたのだ。 過去の仕事で得た経験を生かし、罠や待ち伏せを警戒しながら、 油断無く、そして迷い無く、速やかに機内を進んで行く猪狩。 どうやら、進む方向は正解だったようで、道中罠が仕掛けられていた。 それらを避け、または解除しながら、更に奥へ進む。 仕掛けられた罠も結構な数になってきた。そろそろ出くわすころだろう。 そう思った猪狩の目に、また一つ新しい罠が映りこむ。 脛のあたりの高さに張られたワイヤー。触れれば罠が作動し、何かしらの手傷を負うことになるだろう。 引っ掛らないように足を上げて通過しようとする猪狩。 その時、気流の影響で、機体全体が僅かに揺れた。 「うおおっ!?」 揺れ自体は小さい物だったが、猪狩は過剰反応気味に、大きく後ろに飛んだ。 それが、彼を救った。一瞬前まで彼の頭が在った位置を、閉じた鋏が通過した。 「…………!」 よけられたのは、全くの偶然。先ほどの揺れがなければ、猪狩は何をされたか気付く事も無く、死んでいただろう。 だが、猪狩に動揺はない。すぐさま射出方向へと向き直り、構えを取る。 光吾が身を隠していたのは、天井に配備された開閉式の荷物入れの中だ。 罠を張り、それに敵が引っ掛ればよし。罠に気づかれても、気をとられている内に奇襲で仕留められれば、それもまたよし。 それが、“ケルベロス”ミツコの作戦だった。 「くっ……!外した!姉ちゃん!」 奇襲が失敗した光吾はそこから降り、すぐさま姉の蜜子へと交代。 「ヒャッハー!バラ肉にしてやんよぉー!」 蜜子は料理魔人独特の動きで肉切り包丁を振り、猪狩へと切りかかる。 だが、対する猪狩も様々な苦境を乗り越えてきた歴戦の魔人。 「……ハッ!」 僅かな動きでそれをいなし、カウンター気味に一撃を放つ。 「ミツコちゃーん!」 蜜子は満子へ交代し、驚異的なタフネスでそれに耐える。 「何……っ!?」 「……効きませんわ!」 すぐさま噴霧器を使い反撃に出る満子。猪狩はバック転でそれを回避。 「逃がさない!」 しかし、距離を取った猪狩に、リリアンによって蜘蛛の巣状に編まれたネットが襲い掛かる。 「……クソッ!」 猪狩は無茶だとわかっていながらも、網の下へ飛び込むようにして潜り抜けるしかない。 体勢を崩した猪狩に振り下ろされる肉切り包丁。初撃と違い、今度の猪狩にはそれを避けきる余裕はない。 「ヒャッハー!」 「ぐあっ!」 猪狩の腕が大きく切り裂かれる。 「……まだまだぁ!」 それに怯まず、猪狩はミツコに拳打を叩き込む。 「でりゃあー!」 「ヒャッハー!」 再び始まる両者の攻防。 状況を覆そうと猪狩は気迫をこめて攻撃するが、3人の息の合ったコンビネーションが、それを許さない。 「がっ……!」 「ぐうう……!」 「ぐあああ!」 幾度となく、猪狩の体に大きな傷が刻まれる。 今や猪狩には至るところに傷が刻まれており、その体は血だらけだ。 対するミツコは一つも有効打を食らっておらず、ほぼ無傷に近い。 「もういいでしょう。実力の差は明らかです。これ以上は時間の無駄、降参なさい。」 満子が諭すような口調で言う。だが 「………まだ、だ!」 猪狩の闘志は微塵も落ちていなかった。その目はまるで、自分が負ける事など在りえ無いと確信しているようだ。 「………自分には家族が居るから、ですか?」 「そうだ……。俺には家族が居る。勝たなきゃいけない理由がある。家族が居る限り、俺は負けない!」 力強くその問いに答える猪狩。 満子は一つため息を付いた。 「みっちゃん。教えてさし上げて。」 気配がスゥと入れ替わる。 「猪狩君、残念だけど君に勝ちの目はない。なぜなら、僕達は既に、君の真相にたどり着いている。」 入れ替わった光吾は淡々と告げ、懐から数枚の写真を取り出す。 「これ、は……!」 写真を見るや否や、驚愕に見開かれる猪狩の目。 その写真に写っていたのは、孤児院『どんぐりの家』と……そこから連れ出される、十数人の子供たち。 「既に君の武器は封じさせてもらった。この勝負、君に勝ち目はない。」 --- 一方その頃、希望崎学園、黒樺寮前。 「子供たちを、わしの子供達を返してもらおう!」 どんぐりの家の園長、松五郎はそこで家族を取り戻すため、孤独な戦いを挑んでいた。 ほんの僅かな時間、孤児院を留守にした間の失態。 幸いにも、万が一の事態のために五本指に持たせてある発信機によって居場所はすぐに知れたが、単身駆けつけた園長を迎え撃つのは十数人の希望崎魔人だった。 「ミツコの頼みだ!あんたを通すわけにはいかねえんだよ!」 園長はかつて炭夜紫会屈指の武闘派として恐れられた男。並大抵の魔人が叶う相手ではない。だがしかし 「オラッ!おっさん後ろだ!」 園長は蹴られながらも、その足を匕首で切りつける。 「残念、『身長190cmの世界』。膝より下は全部シークレットブーツでしたァ。」 弱小魔人たる黒樺寮寮生たちは真っ向勝負など挑まない。 妨害、撹乱こそ彼らの常套手段であった。 押しては引き、入れ替わり立ち代わり行く手を遮る彼らによって、園長は寮の門をくぐることすらできず、いたずらに時間だけが過ぎていった。 (いかん…このままでは、誠が) 焦りを感じた瞬間 「ヒャッハー!」スライディングタックルで足を払われ、地面に倒される。 次々とのしかかってくる魔人たちの重みで、体の動きが封じられた。 「グゥゥ、くそぉ、殺せ!わしを殺せぇ!!」 「おっと、そうはいかねえ。ミツコちゃんからは決して怪我をさせるなとも頼まれてるんでね。」 (ケルベロスミツコ、やはり誠の能力に完全に気づいておったか。……こうなれば、やむを得ん!) 「誠ぉー!後のことは、全て任せたぞ!」 叫ぶやいなや、園長は渾身の力を顎に込め、突き出した舌に向けて両の歯を噛みあわせた。 しかし、なんたることか、その歯は舌の上をツルリと滑り、そのまま上下の歯が打ち合わされる。 「!?」 何度繰り返しても、結果は変わらない。園長の舌はするりするりと歯を掻い潜る。 その様子を見て寮生の一人が得意げに語る。 「これぞ我が能力『魔術師手術中(マジシャンズオペレーション)』。極限の滑舌を持ったものは決して噛むことは無い!」 「く、クソォー!誠、誠ォーーー!」 必死の形相で叫ぶ園長。しかし、状況は絶望的だ。 園長の声は黒樺寮に虚しく木霊するだけだった。 --- 猪狩と“ケルベロス”ミツコの戦いは、もはや一方的な虐殺へと形を変えていた。 「ぐ、ぐううう……!」 「ヒャッハァー!しぶとい奴だねぇー!」 猪狩の傷は先程よりも増え、もはや息も絶え絶えといった感じだ。 もはや殆ど攻撃を仕掛ける事も無く、ひたすら逃げながら、ミツコの攻撃を防ぎ続ける。 『All for one』を封じられ、肉体的にも追い詰められている、絶望的な状況。 そんな中でも、猪狩の目は、いまだ闘志の輝きを宿していた。 なぜだ……?何故、彼はまだ諦めていないんだ? それが、絶対的に有利なはずの光吾の心に、僅かな不安を芽生えさせる。 園長が子供たちを取り返してくれると期待しているのか? それとも……もしや自分たちの推理に見落としが有ったのだろうか… 「俺の家族に手出しをするやつに、俺は絶対に負けねえ……」 真っ直ぐに自分を見据える猪狩の瞳を見ていると、彼は本当に自分たちが考えていたような外道なのだろうかという疑念が膨れあがる。 「みっちゃん!しっかり!」 はっ。と、我に返る光吾。 「やっちまったもんはしょうがねぇだろ。考えるのは倒してからやりゃあいいんだよ」 「……そうだね。ごめん、姉さん。姉ちゃん。よし、一気に勝負を決める!」 アイアンロッドを構え、猪狩を見据える。 だが、その視線の先の猪狩は、どこか遠い目で外を見ていた。 「………来た。」 ぼそりと、猪狩が呟く。そしてそれと同時、猪狩を中心に風が巻き起こる。 「なん……!?」 今度は光吾が驚愕に目を見開く番だった。 封じたはずの、猪狩の能力『All for one』が、今、発動していた。 --- 数分前、黒樺寮。 そこには、園長の叫びを、聞き届けた者たちがいた。 「ねえ、今の声……もしかして、園長じゃ?」 「いやでも、あのお姉ちゃんは園長と猪狩おにいちゃんの頼みだって言ってたし…」 それは、黒樺寮の中に連れて来られた園児たち。 (……やっぱり嘘だったんだ。あの人の言ってたこと。) そしてその中には勿論、五本指の一人、ももこも含まれていた。 (誠お兄ちゃんが、危ないんだ……。) 園長の叫びを理解したももこは、部屋の奥に目をやった。机の上にはナイフが置きっぱなしにしてあった。 ももこの脳裏に、まゆとめい、そしてまさるの顔が思い浮かぶ。 ……猪狩の能力の正体に気付いていたのは、ミツコだけではなかった。 五本指の一人、ももこは、子供達の中でもとび抜けて賢く、勘のいい子だ。 彼女はまゆ、めいのいなくなったタイミングと、猪狩の逆転のタイミング。そしてまさるが入院した事等から推理し、猪狩の能力を見抜いていたのだ。 (あの3人も……お兄ちゃんの力になれて嬉しかったのかな) 監視の目にとまらないよう、ももこはゆっくりと、机に近づく。 (お兄ちゃんは優しい人だ……。きっと3人を傷つけたのも理由がある。……それに) ナイフを手に取り、刃を自分の喉元に向ける。監視がももこの異変に気付くが、もう遅い。 (どんな理由でも。誠お兄ちゃんが望むなら、私は……。) そのまま倒れこむようにして体重をかけ、ナイフを突き立てる。喉からは温かい液体が流れ出し、体からはその分の熱が引いていくのを感じる。 同時に、周りの景色も、声も、意識も、だんだんと曖昧になっていく。 (私はどうなってもいい。だから……。勝って、誠お兄ちゃん……。) 子供達の叫び声が、黒樺寮の魔人の声が、園長の声が、遠くに聞こえる。 そして、ももこは……。 --- 猪狩の目から、一筋の涙が零れた。 「ももこが、死んだ」 「どうして……?誰ひとり傷つけるなって、僕は確かに言ったんだ。誰も傷つけずに戦いを終えられるはずだった…」 激しい動揺を無理やり押さえつけ、リリアンネットを放つ光吾。 「………はぁっ!」 猪狩はその場から動かず、手刀によってそれを切り裂く。 「こんなもので……今の俺を止められると思うな!」 「……!みっちゃん!危ない!」 猪狩は距離を一足でつめ、打撃を放つ。操作権を奪った満子がそれを防ごうとする。 「が、ぐぅ…っ!」 しかしそれよりも、猪狩のほうが圧倒的に早い。 ボディに直撃を受け、後ずさる満子。 「お前らさえ余計なことをしなければ……ももこは辛い思いをしなくて済んだんだ!」 「ああああっ!」 怒声とともに、もう一撃。満子はそのまま、数m吹き飛ばされる。 満子は蜜子に切り替わり、倒れた状態から一瞬で飛び上がって、猪狩に包丁を振るおうとする。 (ダメだ、姉ちゃん……!) 「う……!?」 だが、包丁を振るうより先に、猪狩がその手を掴む。 「こ、この……!」 蜜子は手を振り払おうとするが、猪狩に掴まれた手はピクリとも動かない。 「……でやぁ!」 猪狩が気合と共に、掴んでいた腕を勢いよく捻る。 「ぎっ……!?」 ごきゅり、という嫌な音とともに、蜜子の右腕がありえない方向へ曲がる。 「が、があああああああああ!?」 痛みのあまり、叫び声をあげる蜜子。形勢は、完全に逆転していた。 「オラァ!」 さらに顔面に叩き込まれる、猪狩の拳。 「あの世で……ももこに侘びろ!」 それに続いて、2発、3発と、まるで機関銃の如く、連続して拳が打ち込まれる。 「オォォォォォォォォォォォラァァァァァ!!」 「――――――ッ!」 『All for one』によって強化された連打に、耐え切れるはずもない。 “ケルベロス”ミツコは声をあげることも出来ずに、吹き飛ばされていった。 「…俺と園長に任せておけば、もっと穏やかな気持で死なせてやれたのに」 猪狩はそう呟くと、流れる涙を拭った。 「…やっぱり、どっちにしろ殺す気だったんだな」 立ち去ろうとした猪狩の背に、光吾が声をかける。 「一瞬でも君を信じようとした僕が、バカだった。…外道、お前こそが“世界の敵”だ…!」 光吾はガクガクと震える足に鞭打って無理矢理に体を立たせる。 もはや戦闘を続ける力はどこにも残されていない。しかし 「僕の能力は『世界の敵の敵』。一人の主人公の死と引換えに世界の災いを打ち消すことができる能力だ」 光吾の言葉には強い決意があふれていた。 「お前をこのまま野放しには出来ない。僕の命と引き換えにしてでも、消し去ってやる」 「ミツゴ君!」 「みっちゃん!」 「ごめん、姉さん。姉ちゃん。」 「何いってんの!ひとりだけいいかっこしてんじゃないよ!」 「そうですわ。私たちはいつも3人一緒ですわよ。」 「……ありがとう。」 光吾は左手の拳を猪狩に向かって突き出す。 「3人分の魂、お前にくれてやる!」 握られた手の中から溢れたまばゆい光が、空間を満たす。 「な、なにを…」 『世界の敵の敵!!』 全てを白く塗りつぶす、純白の闇。 永遠にも思える一瞬の後、世界は再び元の姿を取り戻した。 元の、姿を そう。世界は何一つ変わっていなかった。 眼前に立つ猪狩誠の姿もそのままだ。 「バカ…な…」 すべての力を失った“ケルベロス”ミツコは愕然としてその場に膝をつき、絶命した。 「俺が世界の敵だと?そんな訳はねえ。俺が、この大会にかける願いはただひとつ。……人類総家族化(せかいへいわ)なんだからな。」 --- 「夕霧、どうやら勝負がついたようです。」 「やはり、勝ったのは猪狩か。」 同時刻。飛行機の操縦室で瞑想を行っていた冷泉院は 猪狩とミツコの戦いが終わった事を感じ取り、ゆっくりと立ち上がった。 徹底した合理主義者である冷泉院は、乱戦を避け、最初から端に陣取って静観を決め込んでいた。 探偵である“ケルベロス”ミツコなら、猪狩の能力の秘密を暴き、打ち破れるのではないか。 そう思ったが、生憎その期待は外れに終わったようだった。 「まあ、当てが外れるのはいつもの事だ。」 トン、トンと、軽くステップを踏み、『仮面の力』が正常に働いていることを確かめる。 そして、義足を操縦席の計器類に向かって、勢いよく振り下ろした。 「さて、どこまでやれるか。」 ゴゥン、と気味の悪い音が響き、機体がぐらりと揺れた。 冷泉院は軽く頷くと、扉を開き、猪狩誠の待つ機体の後部へと移動し始めた。 --- 「うおっ……!?」 “ケルベロス”ミツコを下してすぐのこと。 猪狩が冷泉院を探して操縦室の方へ向かっていると、 突如、ジャンボジェット機の機体が、大きく揺れ始めた。 「なんだ……!?どうなってんだ……!?」 揺れは、一時的なものではない。それもそのはず。これは気流の影響などではなく、 冷泉院が制御装置を狂わせることによって起きた揺れだからだ。 「くそっ……!もしかしてこれ、落ちるんじゃないだろうな……!」 あまりの揺れにの大きさに翻弄される猪狩。そんな彼の元に、一人の男が姿を現した。 「予想通り、随分と苦労しているようだな」 「お前は……!」 真鍮製の義肢と顔を半分ほど覆う仮面という、独特の外見。 そんな特徴的な姿をしていながら、このトーナメントで最も謎が多い男。そしてこの試合の、もう一人の対戦相手。 「冷泉院、拾翠。」 現れた冷泉院は距離を取り、注意深く猪狩を観察する。 能力は既に発動しているようだが、一回戦の時とは違い、 その体には“ケルベロス”につけられたと思わしき傷が、治りきることなく残っていた。 “ケルベロス”のお陰かは判らないが、どうやら1回戦のときほどの力は、今の猪狩にはないらしい。 「この揺れを引き起こしたのは、お前か。」 「だったらどうする。」 猪狩の問いに素っ気無く答え、冷泉院が飛び掛る。 小さな動きでそれをかわす猪狩。 「ハァッ!」 「……!くっ!」 しかし、機体に起こった揺れのせいで、うまく体勢をコントロールできない。 直撃を受けることはなかったが、反撃を行うことができない。 対する冷泉院は、その動きの殆どを空中で行っていた。揺れの影響は、猪狩よりも遥かに少ない。 計算通り。 猪狩が十全の力を発揮できれば、冷泉院は敵わないだろう。 だが、この揺れがひどい機内では、空中戦を主とする冷泉院のほうに地の利がある。 時間と共に、徐々に押されて行く猪狩。 そして遂に、冷泉院の強力な一撃が、猪狩を捕らえた。 「ぐああっ!」 蹴りをまともに食らい、大きく吹き飛ばされる猪狩。 冷泉院は地面を強く蹴り、追撃を加えようとする。 同時に、猪狩が動いた。猪狩は吹き飛ばされた勢いを殺さず、そのまますばやく起き上がり、そして…… 「オラァー!」 直ぐ脇にあった飛行機の扉に、拳を突き立てる。 勢いよく外に吹き飛ばされていく扉。そして機内に巻き起こる暴風。 「な、なんだと!?」 空中にいた冷泉院は吹き飛ばされそうになるものの、とっさに座席を掴み、何とかそれに耐える。 「これでもう、あの力は使えない。俺の勝ちだ、冷泉院。」 冷泉院拾翠の能力 『仮面の力』は、地面から完全に体を離さなければ、使う事は出来ない。 しかしこの状況下でそれをすれば、暴風に体を持っていかれ、まともに戦う事は出来ない。 猪狩の言うとおり、『仮面の力』は封じられた。これ以上やっても、冷泉院に勝ち目はない。 だが、冷泉院はまだ、諦めきってはいなかった。 「降参したいところだが、勝負は最後まで……何が起こるかわからない」 1回戦でも、敗北を覚悟したところから、彼は逆転したのだ。今回もまた、何かが起こるかもしれない。冷泉院はその考えを捨てきれずにいた。 「そうか。それじゃあ……終わらせよう。」 冷泉院に止めをさそうと、猪狩は地面を踏みしめながら、冷泉院に近づいていく。 猪狩が拳を振り上げ、冷泉院を真っ直ぐ見る。 「ふっ」 冷泉院は絶体絶命のピンチでありながら、真っ向から視線を受け止める。 『白刃獲り没収EX』 何も持たず、素手で攻撃しようとしていた猪狩に対して、冷泉院のもう一つの能力が発動する。……その能力は、冷泉院にも予期していなかった、異常な事態が引き起こすことになる。 「「な、なに!?」」 冷泉院の能力によって呼び出された武器を見て、二人が驚愕の声を上げる。 「い、いったい此処は……どこじゃ!?わしにいったい何が……っ!」 そして同時に、呼び出された武器……『どんぐりの家』園長も、驚愕の声を上げた。 --- 「え、園長……!」 「ま、誠!?どういうことじゃ!」 驚きのあまり、三者の動きが止まる。 その中で最も早く次の行動に出たのは、冷泉院であった。 (……夕霧――――) 仮面の声が冷泉院の頭に響き、冷静さを取り戻させる。 冷泉院は突如現れた男、園長に飛び掛った。 「ぬう……!?」 攻撃の気配を感じた園長は振り向きながら、手に持った匕首で攻撃しようとする。だが、 「なっ……!?しまった……!魔人能力か…!」 その匕首は冷泉院の能力によって奪われ、逆にそれを突きつけられてしまう。 「………動くな。」 園長を人質に取った冷泉院が、猪狩に話しかける 「……こいつが誰だか、俺はよく知らない……。だが、俺の能力で出てきた以上、何かしらお前と関係があるんだろう。」 園長の首に匕首を更に近づけ、冷泉院は続ける。 「もしもこいつが死んだとして……果たして運営の奴らは治療するかな……?」 こいつを殺されたくなければ、今すぐ降参しろ。冷泉院はそう告げているのだ。 「かまわん、誠!わしごとやれぇーっ!」 園長が、悲痛な叫びを上げる。 この脅迫が、もしも他の、まともな倫理観を持つ対戦相手に対して行われたのなら、恐らく有効だっただろう。 だが、相手が悪かった。今回の対戦相手、猪狩誠には……そのようなまともな倫理観は、存在していなかった。 「園長!あんたなら、そう言ってくれると思ってたぜ!」 「な…………っ!?」 「う、おおおおおおおおおおおお!」 何の躊躇いも無く、園長に拳を叩き込む誠。 園長を傷つけた事で更に強化された拳は園長で止まらず、その後にいた冷泉院も、まとめて貫いた。 「なん……て……奴だ……」 園長と冷泉院。二人の目から光が消えていく。 「園長………っ!」 猪狩は腕を引き抜き、倒れかけた園長を支える。 「誠……そんな顔をするな……。これでいいんじゃ、これで……」 穏やかな顔で、園長は猪狩に話しかける。 「死ぬな……死ぬな園長!直ぐに病院に連れて行ってやるからな!」 必死に園長を呼ぶ誠。しかし、園長の顔からは見る見る血の気が引いていく。 「いいんじゃ……。子供達を手に掛けた時から、こうなる事も覚悟していた。何より……」 園長がゆっくりと手をあげ、猪狩の頬に触れた。 「我が子の手の中で死ぬというのも……。悪いもんじゃあ、ない……ぞ……」 「園長……!?おいっ!園長……!」 持ち上げられた手が力を失い、地面に落ちる。 「……園長!………えんちょおおおおおおおおおおおおお!」 飛行機内に、猪狩の悲痛な叫びが響き渡る。……それに答えるものは、もう、誰もいなかった。 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/jyugoya/pages/820.html
SS分類/頂天のレムーリア WR/2005/12/04 儀式魔術/絢爛舞踏祭開始 8日目・夕 レムーリアルート0 Hコース ボーナストラック レムーリアルート1 Hコース 10日目・深夜 レムーリアルート2 Hコース WR/2005/12/18 儀式魔術/絢爛舞踏祭終了 昇天のレムーリア(1) ペンギンボーナス 白いオーケストラ 前哨戦3 WR/2006/3/2 儀式魔術/白いオーケストラ開始 戦闘詳報8 戦闘詳報9 戦死3 引き分け 戦闘詳報11 人類の勝利 戦死0 完勝 WR/2006/3/6 儀式魔術/白いオーケストラ終了 戻る→SS分類
https://w.atwiki.jp/debutvselder/pages/175.html
~4ターン目先手終了後の分岐世界(パラレル・ワールド・エンド)~ 新参Bチーム戦勝記念SS ~4ターン目先手終了後の分岐世界(パラレル・ワールド・エンド)~ 新参Bチーム戦勝記念SS もうちょっとだけ続くんじゃ 懲りずにD&D ~4ターン目先手終了後の分岐世界(パラレル・ワールド・エンド)~ 新参Bチーム戦勝記念SS 緑風「――んん……ん?」 梨咲「ああ!緑風さん!!」 緑風「あれ?梨咲?えーっと俺は……ここはあの世か?え?お前成仏したの?」 梨咲「何言ってるんですか。ここは保険室ですよ」 緑風「え?だって俺、古参のヤツに殺されちまったんだよな?」 梨咲「それがですね、あの後D・Pさんがやってきて緑風さんのこと治してくれたんですよ!」 緑風「え?」 梨咲「だから……緑風さんは今、ちゃんと生きてますよ!」 緑風「え?あれ?D・Pってアイツ女しか治せないんじゃなかったか?」 梨咲「なんでも時間と設備があれば男でも治せるとか言ってましたよ。戦闘中なんかじゃ女しか治せないけどな、って」 緑風「なんだそりゃ……あ!?ってことは覇竜魔牙曇(ハルマゲドン)は決着ついたのか!?」 梨咲「はい!緑風さんのおかげで、新参Bチームは皆無事です!覇竜魔牙曇は古参陣営の降参で決着しました!」 緑風「おお!ってことは俺たち新参陣営の勝利か!」 梨咲「はい!完勝です!」 緑風「いよっしゃあ!」 梨咲「本当に……緑風さんも助かってよかったです……私……すごく……」 ダビ「佐座!目を覚ましたか!」 緑風「ダビデ!お前も無事だったんだな!」 ダビ「ああ。と言っても俺も一度は死んだようなものだったけど……な」 緑風「あん?どういうことだ?」 ダビ「俺も古参のヤツに殺された、という記憶はあるが、気付いたときには殺される直前に古参陣営が降参していた」 緑風「は?何を言ってるかわからねーぞ」 夢追「事象の改竄……ですよ」 緑風「……誰?」 ダビ「俺の台詞を取るな。夢追」 緑風「夢追!?ああ、夢追か!……着物なんて着てるし眼鏡かけてねーし、髪型も違うからわからなかったぜ」 夢追「覇竜魔牙曇で服がボロボロになっちゃいましてね。大至急着替えたんです」 ダビ「ボロボロになったというか」 夢追「ストップ!服持ってきてくれた親友にも泣かれちゃいましたし、反省してるんですよ!」 ダビ「反省……ね」 夢追「と、とりあえず今度からもうちょっと破れにくいようスパッツじゃなくてハーフパンツにでもしようかと」 ダビ「ほう」 緑風「あ!アレは!?」 夢追「えっ!?なんですか!?」 緑風「……」 ダビ「……」 夢追「……」 緑風「よくわからねーがどうせ夢追がいつも通りのことやって、そしてさっぱり反省してないってことはわかった」 ダビ「ああ、そうだな」 夢追「は、反省はしているのですが条件反射で……というか話を本筋に戻しましょうよ!」 緑風「ああ、事象の改竄だっけ?」 夢追「はい。どうやら古参陣営には既に起こった出来事を時間を遡ってなかったことにする能力を持った魔人がいたようでして」 緑風「はあ!?無茶苦茶じゃねーか!」 夢追「まあ自由に使えるようなら無茶苦茶もいいところですが、どうやら改竄できるのは途中経過くらいで結果は変えられない能力のようです」 緑風「あー、つまり、古参陣営がこっぴどく負けた。事象改竄能力を使って時を戻し、こっぴどく負ける前にさっさと降参した。そういうことか」 ダビ「どうやらそのようだ。まあ、おかげで俺は無事に生き延びれたわけだが」 緑風「結局死んだのは俺だけかよ。格好つかねーな」 夢追「まさにD・Pさんの言った通りってわけですね」 緑風「ああ?D・Pのやつが何か言ってたのか?」 夢追「はい、彼の完全蘇生ですが……対価があることをお忘れですか?」 緑風「対価?……あぁ、そいつが死んでも成し遂げたかったこととかなんとかだっけか?」 夢追「そうです。命を賭したその理由、それを対価として蘇生させる能力です」 緑風「見たとこ俺には何の変化もねーけど……俺は何を支払ったんだ?」 夢追「“ヒーローの死という見せ場”です」 緑風「……は?」 夢追「D・Pくんは緑風くんの格好良く死ねる見せ場を対価に生き返らせてくれたんですよ」 緑風「……」 ダビ「クク……」 夢追「ふふ……」 緑風「……ぷっ!あっはっは!あー……なんだそりゃ。あいつそういうこと言うやつだったのか」 のも「傑作だね!あるいはツンデレ!」 緑風「おお、阿野次」 ブロ「緑風お前の今回の活躍は見事な仕事だと関心はするがどこもおかしくはない」 緑風「武論斗さん!」 ブロ「お前の活躍に免じてジュースをおごってやろう」 緑風「俺、そんなに活躍したのか?一人で突っ走ってさっさと死んじまっただけのような」 ブロ「活躍しようとして活躍するんじゃない活躍してしまうのがナイト」 ダビ「お前が囮になってくれた。それが今回の新参陣営の勝利につながった。それは事実だ」 のも「格好良かったよ!さっすが主人公!」 緑風「へへっ……そうか……って、なあ?あっちの隅っこで稲荷山は何やってるんだ?」 和理「……私の……究極の……握り寿司……」 ダビ「ああ、転校生の魂で究極の握り寿司が完成するはずだったんだが」 のも「私が転校生をひきつけてね」 ダビ「だがいざ寿司を握ろうという直前で古参が白旗をあげて」 のも「転校生もどっかいっちゃって」 和理「……完成すると……思ったのに……」 緑風「ああーなるほど……おい!稲荷山!」 和理「あ、緑風君。もう大丈夫?」 緑風「おう!お前もまあ寿司は残念だったが新参は完勝したんだろ!チームリーダーなんだからもっとシャキっとしろよ」 のも「そうそう!和理のこの通信機を使った戦術ラジオ作戦はすっごい役に立ったんだし、胸はっちゃいなよ!」 和理「そうね。できなかったことを悔やんでも仕方ないし、折角古参に勝ったんだからもっと喜ばないとね」 夢追「ということは当然、この後……?」 和理「ええ!転校生握りは出来なかったけど、とびっきりのお寿司をみんなに振舞ってあげるわ」 のも「やったあー!」 緑風「おおーっし!なんか安心したら腹も減ってきたし、思いっきり食うぜ!」 ダビ「待てよ佐座。ひとつ忘れているぜ」 緑風「あん?何をだ?」 夢追「ああ、そうですね」 ダビ「ほれ、お前を心配してくれていたヒロインに何か言ってやれよ」 梨咲「……」 緑風「あー……梨咲……」 梨咲「緑風さん……」 緑風「なんか心配掛けさせてごめんな。一人だけ死んじまって、結局生き返って、ほんとD・Pの言うとおりかっこ悪く生き残っちまって」 のも「カーット!」 梨咲「えっ!?」 緑風「な、なんだよいきなり」 ダビ「おいおい佐座!お前の中二力はその程度だったのか?」 緑風「は?どういうことだよ?」 ブロ「おいィ?お前らは今の言葉聞こえたか?」 のも「聞こえてない」 夢追「何か言ったの?」 ダビ「俺のログには何もないな」 緑風「みんなしてなんだよ!?」 夢追「ほら!今は緑風くんの見せ場なんですよ!」 のも「心配するヒロインに掛ける主人公の台詞ってものがあるじゃん!」 緑風「……あー、なんかお前らの言いたいことが分かった……」 ダビ「ほれ、事象の改竄だ。もう一回」 のも「テイクツー!アクショーン!」 梨咲「え、ええっと?みなさん?」 緑風「あー……梨咲」 梨咲「あ、はい」 緑風「心配してくれてありがとうな。だが、俺のことなら心配無用ってやつだ」 梨咲「で、でも本当にあの時はもう駄目かと思って……すごく悲しくて……」 緑風「大丈夫だ。ほら、現にこうしてぴんぴんしているだろ」 梨咲「そうですけど……」 緑風「心配するなって。俺には主人公補正って奥の手だってあるんだ」 梨咲「ど、どういうことですか?」 緑風「つまり、だ」 緑風「主人公は何があっても死なないんだよ。だから俺のことはいつでも安心して見ていろ」 梨咲「…………はい!」 のも「ひゅー!」 夢追「熱いですね!」 ダビ「世話の焼けるやつだな」 緑風「っておい!そっちに話を持っていくなよ!折角格好良く決めたところじゃねーか!」 梨咲「そ、そんな、私、その、あの……」 緑風「梨咲もここで乗っかっちゃうの!?」 和理「みんな!お寿司ができたよ!」 ダビ「おっとそれじゃあ続きは寿司を食べながらだな」 夢追「それじゃお先に……って武論斗さんもう食べてる!?」 ブロ「もぐもぐ」 のも「はやい!」 夢追「メイン盾きた!……じゃなくて速さなら私も負けませんよー!」 のも「私も私もー」 緑風「……」 梨咲「……緑風さん?食べに行かないんですか?稲荷山さんのお寿司すっごく美味しいですよ?」 緑風「ああ……もちろん食べるぜ……ただ……な」 梨咲「どうかしたんですか?」 緑風「覇竜魔牙曇の前ではヒーローとして格好良く死のうなんて考えてて、結局生き延びて、まあ主人公だから当たり前だけど」 梨咲「はい」 緑風「実際、格好良く死ねなくて、無様に生き延びて、それでわかったけどさ……」 梨咲「……はい」 緑風「ありがとな」 梨咲「えっ?」 緑風「お前の『死ぬ』はやめようよ!って言葉と……あとは一級ツンデレ師のD・Pのおかげでわかったんだよ」 梨咲「……」 緑風「無様に生き延びるってのも偶にはいいもんだな!」 梨咲「!!……はいっ!」 緑風「さ、俺たちも行こうぜ」 梨咲「あ、そうですね!早くしないとお寿司がなくなっちゃいます!」 和理「それでは新参陣営完全勝利を祝しましてー」 一同「かんぱーい!」 さんきゅーおーるきゃらくたー さんきゅーおーるぷれいやー そして……さんきゅー魁!!ダンゲロス! ――魁!!ダンゲロス――ハッピーエンド!! 「納得いかないわ……」 地の底から響き渡るような、底冷えのする声音に、勝利の祝杯を飲まんとしていた新参陣営の面々は凍りついた。 この声、このシチュエーション、このパターンは、 皆が皆、どす黒い予感を胸に、油の切れたロボットのようにぎこちない動きでギギギ……と声のした方へ首を向けると―― ――あれ?このお話ってハッピーエンドじゃなかったの? ――結局、格好良く終わらせてはくれないの? この物語の主人公である――否、先程まで主人公であった緑風は、疑問と諦観をないまぜにした気持ちで不穏な空気の発生源へと振り返ると―― はたして、嫉妬の炎を身にまとう、緑眼の怪物がそこにいた。 ~4ターン目先手終了後の分岐世界(パラレル・ワールド・エンド)~ 新参Bチーム戦勝記念SS もうちょっとだけ続くんじゃ 埴井「なんで!?どうして!?なに緑風ばっか目立ってるの!?」 和理「は、埴井さん、あなたもすっごく活躍してたわよ?あなたが睨みを利かせてくれていたお陰で」 埴井「なによ!それじゃ私がヒロインポジにならないのはなんで!?あたしなんて、その……ゴニョゴニョ……してまで戦ったのに!」 ダビ「落ち着け埴井。俺もまだケツが痛いんだ。アレは野良犬にでも噛まれたと思って忘れろ」 夢追「わ、私も親友に泣かれちゃいましたし、皆さん頑張ったってことで」 埴井「うるさいうるさいうるさーい!みんなそうやってあたしの恥ずかしいところ思い出して笑ってるんでしょ!」 緑風「すまねぇけど誰か俺にも話の流れを教えてくんない?」 埴井「もういいわ!あんた達!こいつらみんなやっちゃいなさい!」 ブロ「おい馬鹿やめろ」 和理(どうするの?この事態?) ダビ(いつものパターンから考えるとやばいな) 緑風(え?ハッピーエンドじゃなくて全滅エンドフラグ?俺が死んでる間に何があったの?) 夢追(話すと長いんです) のも(よし!ここは私にまかせて!いいこと思いついた!) 夢追(阿野次ちゃん!頼もしい!) 和理(何する気?) のも(まあまあ見ていてちょうだい) 埴井「なによ!?」 のも「落ち着いてアッシーナ!皆アッシーナが一番目立ってたって思ってるんだよ!」 埴井「適当なこと言わないでよ!私が黙っててもみんな無視して話進めてた癖に!」 のも「そりゃあアッシーナのことはわざわざ言うまでもないくらい目立ってたからだよ」 埴井「後から調子のいいこと言ったって騙されないわよ!あんた達!さっさと」 のも「ちゃんと証拠もあるよ!」 埴井「証拠……?」 のも「アッシーナが一番目立ってたし、これからもアッシーナが一番目立つって証拠」 埴井「ふ、ふーん?そんなものがあるなら見せてみなさいよ。3分待ってあげるわ」 のも「じゃじゃーん!新参Bチーム戦術ラジオー!」 埴井「覇竜魔牙曇のときの通信機じゃない。そんなのがなんだっていうのよ」 のも「うふふ……これには実は録音機能もあるのでしたー!だ・か・ら」 和理「ちょ」 ダビ「おま」 緑風「?」 ブロ「おいィ!?」 のも「ぽちっとな」 裏声『ひゃーん』 のも「……ぁやぁだ///」 埴井「なっ……」 のも「ほら!コイツをユメにでも頼んでお昼の放送で流せば全校生徒の半分……いや、4分の3は一発でアッシーナのファンになるね!」 埴井「……」 のも「あれ?アッシーナ?」 埴井「……」 のも「もしもーし?」 埴井「……」 のも「返事が無い、ただの屍のようだ?」 埴井「……」 ――よくよく考えてみたら阿野次ちゃんにまかせた時点でこの結末は分かりきってましたね…… ――誰だよ、阿野次にまかせたやつ…… ――俺の寿命がストレスでマッハなんだが…… ――お寿司とっても美味しいです♪ ――喜んでくれるのは嬉しいけど梨崎さん、お願いだから状況に気付いて…… ――未だに状況がよく掴めてねーけど、一個だけわかったことがある…… ――これ、ハッピーエンドでも全滅エンドでもねーわ…… ――この物語のオチは…… こうして新参陣営総本部は爆発した。 fin 懲りずにD&D 「はぁ……何よここ。暗くてジメジメして……息が詰まるったらありゃしない」 「そーお?そこがドキドキして素敵だと思うけどなぁ」 「あたしはあんたみたいに珍しいものが見れたらそれで幸せーなんて頭してないのよ」 「おおっと落とし穴」 「ああやだやだ……私は輝く日の光の下で沢山の聴衆から注目を浴びているべきなのに」 「でも一緒に来るって言い出したの埴井ちゃんだったよね」 「ああやだああやだ……ぁやぁだ……」 薄暗い洞窟の中に、トーンの違う女の子二人の姦しい声が反響している。 ここは希望崎学園地下に広がる巨大迷宮。通称『狂頭の試練場』。 そして今、その中を緊張感の欠片もないような会話と共に闊歩しているのが今回のお話のメインヒロイン達。 希望崎学園新参一の目立ちたがりにして蜂使いの一族・埴井家の後継者候補、嫉妬魔人・埴井葦菜(はにい あしな)。 希望崎学園報道部員にして飽くなき魔人能力・凄いことの探求者、年中無休の夢追厨・夢追中(ゆめさこ かなめ)。 二人は先日地上で開催された覇竜魔牙曇(ハルマゲドン)で共に新参陣営の一員として戦い、血と臓物と魔人能力の飛び交う戦場を生き抜いてきた間柄である。 ――そんな激動の日々も今は昔。 新参陣営の完全勝利で幕を閉じた覇竜魔牙曇以降、学園は再び平穏な時間を取り戻していた。 寝る間も惜しんで戦術を練りあい、時にぶつかり、時に励ましあった新参陣営の面々も、今では日常生活に戻っていた。 命のかかった戦場から開放されてまだ間もないこの時期、折角生き延びられたのだから、しばし切った張ったの荒事とは無縁の生活を送ろう……と、普通ならばそう考えるであろうが…… 「もし、あたしが地下迷宮から教頭の預金通帳を見つけてきたら……目立つんじゃない!?」 埴井と…… 「さーて、覇竜魔牙曇も終わったし!まだ見ぬ地下世界へGO!」 夢追は…… 端的に言って、普通じゃなかった。 既に迷宮出入口は遠く、地上の明かりも喧騒も届かない、深い闇と獣達の不気味な唸り声が時折聞こえるだけの地下空間。 そこにブーンブーンと空気を細かく振動させる蜂の羽音が木霊する。 埴井が周囲に放った斥候役の蜂達が戻ってきて、状況を主人に報告しだしたのだ。 「あーあ、こんな辛気臭い場所だって知ってたら初めから来やしなかったのに……はい、こっちは安全っと」 「埴井ちゃんと蜂さん達って本当に凄いねー。索敵に攻撃に情報連携に大活躍って、迷宮探索にいつでもいて欲しいなぁ。頼りになるよ」 「そ、そお?……ふ、ふん!当たり前じゃない!」 「ところでそろそろ何か凄いイベントでも起こりそうな場所は見つかってないかな?」 「あんたさっき、わー宝箱のイデアみたいな宝箱だー!とかなんとか言って罠にひっかかったの全然反省してなさそうね」 「それはそのええと」 「あたしは危険な目に遭うのはまっぴらよ」 「い、以後気をつけます……」 「あ!あんなところに凄いものが!」 「え!どこどこ!?」 「……」ズビシッ 「痛いっ!」 働く蜂にため息をつく埴井。 褒める夢追に照れる埴井。 期待に目を輝かせる夢追にあきれる埴井。 じゃれあう二人に見守る蜂達。 地下迷宮の重く不気味な空気も、ここの周囲だけは避けて通っているようである。 「でもまあ……」 埴井は仕切りなおすように洞窟の闇の先を見据えながら口を開いた。 「確かにもうだいぶ奥まで来たんだし、そろそろお宝のひとつでも出て欲しいものね」 並居るモンスターをなぎ倒したり、トラップに引っ掛かったりに食傷気味になっている埴井の本心であったが、その言葉に目をきらきらと輝かせながら夢追が身を乗り出して食いついてきた。 「もしかして何か見つけたの!?」 「ああもうそんなにひっつかないで!……そうね。一応このコが怪しい場所を見つけてるけど……」 夢追の勢いに押され、今まであえて黙っていた情報を口にしてしまった埴井。それを聞いて喜び、その場でくるくると回る夢追。 埴井はなぜ既に見つけていた怪しい場所のことを黙っていたのか。それは―― 「やったぁ!さぁさぁいこいこ!」 「ああもう!そんなに腕をひっぱらないでよ!言っておくけどそこは何か危険そうな唸り声が……」 「こっち!?こっちだよね!」 「人の話を聞けー!」 ――多分コイツに伝えたらろくでもない結果になるだろうな、と直感していたからである。 「で、この扉がそう」 「わー……ここだけずいぶんと頑丈そうというか立派な扉だねー」 地下迷宮の奥まった場所に、ひときわ異彩を放つ扉が鎮座していた。 その様はまるで、扉自身が「さあここを開けたらイベントが待っているぜ!」と言っているかのようである。 その扉を小突きながら、埴井は扉を見て浮かれる夢追にあらかじめ釘を刺す。 「で、言っておくけど、この扉の向こうからモンスターの唸り声が聞こえてくるからトラップの可能性も大ってわけ。十分注意しないといけないわ」 「うん!それじゃ開けるよ!埴井ちゃんは下がってて!」 人の忠告聞けよ!と突っ込みを入れたい埴井であったが、ぐっと飲み込んで大人しく扉から距離をとる。 どうせ夢追がこの扉を見たら何を言っても止まらないであろうことは予測済みであったから、せめてトラップであったとしても全滅だけは回避しようという考えである。 夢追が扉に手をかけ、ゆっくりと押し開ける。 ギギィと金属のこすれる重い音が鳴るが、特に何も起こることなく扉は開け放たれた。 その様子を見た埴井はほっと息をつき、さて扉の向こうに何があるかと覗き込んでみたその先には―― 強靭な四肢で迷宮の床をえぐり、 銃弾をも弾き返しそうな分厚い鱗に身を包み、 10m四方ほどの部屋を覆いつくさんとばかりに翼を広げ、 鋭く伸びた爪と牙を煌かせ、 腹に響く重低音の唸り声と共に火炎を吐き出す―― まごうことなき、ドラゴンがいた。 「……はっ?」 眼前の巨大生物に対して、埴井は思わず間抜けな声を漏らしてしまった。 えっ?何それ聞いてないんだけど。これまでの触手とかうさぎとかモヒカンザコとかなんだったの? 明らかに危険度違いすぎでしょこれ。初見殺しとかほんとやめてよね。理不尽、よくない。 ……等々、あまりのことに少々思考が片言になる埴井であったが、ドラゴンがまだこちらに気付いていない様子であることを見て取るや冷静さを取り戻し、隣に立つ夢追の手をとった。 「今ならまだ逃げれるわ!さっさとここから離れるわよ!」 声をかけ、そのまま踵を返そうとした埴井が、ここで夢追の様子がおかしいことに気付く。 さっきから夢追は棒立ちで、ドラゴンの方を見てぽかんと口を開けたままでいる。 何をしているのかともう一度声をかけようとした埴井であったが、 「……だ……」 「え?何て言ったの?ぼーっとしてないでさっさと……」 「ドラゴンだぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!!」 「へっ!?」 突然歓声をあげる夢追に、本日二度目の間抜けな声を漏らす埴井。 そんな埴井の様子を気にも留めず、夢追は頬を紅潮させ、恋する乙女のような瞳でドラゴンに向かって走り出そうとした。 「ちょっ!?あんた何やってんの!?」 思わず掴んでいた手を強く握り、その無謀な行為を引き止める埴井であったが、対する夢追は興奮状態のまま暴れだした。 「離して!離してください!ど、どらごん……ドラゴンがっ!」 「バカ!どうみたってあんなのに近づいたら死ぬでしょ!」 「お、お願い!せめてあの首に……あの首に抱きつかせてー!」 「アホ!そんなことする前に死ぬわよ!」 「どどどどどらごんがー!」 「いいから落ち着けー!!!」 30分後、ドラゴンのいた部屋からいくらか離れた場所で息を切らせてへたりこむ二人の姿があった。 「……あんた……地上に出たら覚えときなさいよ……」 「あ、は、ふぅ……ご、ごめん……なさい……」 何とか暴れる夢追を抱え上げ、走り続けられる限界まで全力疾走して逃げてきた埴井と、 どこか焦点もあわず、小刻みに体を震わせ、ときどきビクンと大きく痙攣しつつ、荒い息の間に夢見心地のような声で返事をする夢追。 「はぁ……」 もともと突っ走る奴だとは思っていたけど、まさかこれほどとは……驚愕というよりむしろドン引きしながらため息をついた埴井であった。 『オレたちの日ごろの心労……ちょっとはわかってくれるかなぁ……』 「何?あんたたち何か言った?」 『いえ……』 そんな埴井の様子を見ながら、蜂達もまた、こっそりとため息をつくのであった。 「ご、ごめんなさい。私、神話とか大好きで……特にドラゴンなんかは」 「はいはい、言い訳は後でたっぷり聞かせてもらうから。それより今はこの辛気臭い場所からさっさと脱出するわよ」 内股をもじもじさせながら、うつむき加減に謝ってくる夢追を適当にあしらい、埴井は蜂達に指示を飛ばしていた。 先程のドラゴン騒動で一目散に逃げ出したものだから、現在地がわからなくなっているのである。 とにかく、下手に動かず周囲の状況をしっかりと把握して、最短経路を通って地上へ脱出しないと。あんな物騒なモノがいる場所なんて1秒も長く居たくないわ。 そうつらつらと考える埴井へ、蜂達が『気になるものを見つけました』と報告してきた。 「……ふーん?そう、それじゃちょっといってみようかしら」 「えっ?何かまた見つけたの?」 「……」ズビシッ 「痛いっ!」 「ほら、行くわよ」 蜂達の報告によると、なんでも近くにライブハウスのようにステージと客席に分かれた部屋があり、そこに正体不明の人影が大量に集まって集会を開いているらしい。 その人影達に攻撃的な雰囲気はなく、集会の内容も迷宮を訪れる冒険者といかに仲良く接するかというものであったので、もしかしたら迷子の自分達を助けてくれるかもしれないと考えたのだ。 今までにも何度か迷宮内で友好的なモンスター達に出会っているため、少なくともいきなり襲われることはないだろう。 「ここね……」 「おー、確かに幽霊さんなのかな?いっぱい集まっているねー」 ちょうど部屋のステージ袖にあたる部分から集会の様子を窺う二人。 「おや?これはこれは実に可愛らしいお嬢さんがたがいらっしゃったようですね」 特別気配を殺していたわけでもないので、すぐに気付かれたようだ。 二人に気付いたステージ上で進行役をやっていた人影がこちらに話をふってきた。 「遠慮せずにこちらまでどうぞ。今、我々はあなた方のような冒険者といかに親密な関係を築くかについて話し合っていたところでして。是非とも冒険者視点からのご意見もお聞きしたいと思っていたところなんです。しかもその冒険者がこのように可愛らしい方々でしたらもう大歓迎ですよ」 一気に言いたいことを喋りきった進行役に、よく口が動くもんだと半ばあきれつつ、それでもおだてられて悪い気はせず埴井はステージ中央へ歩み寄った。 「で?あんたたちはどうして私達と仲良くしようとしてるの?」 「はい、それが我々は見ての通りしがない幽霊なのですが、昔からどうも冒険者達に執拗なまでに付け狙われているのです。元々、我々はここではない世界の迷宮に住んでいたのですが――」 「ふーん。要するに昔住んでいた場所で酷い目にあったから新しくここに来た。ここでは同じ目に遭わないよう用心しよう。そんな感じ?」 「はい、そういうことです」 埴井はふむ、とうなずきつつ、そういえば当初の目的を忘れてたと、交渉を持ちかけることにした。 「とりあえず色々あたしも考えてみるからさ、ひとまずあたしたちを地上まで案内してくれない?」 「それならばお安いごようです」 「あ!どうせならあんたたち迷宮で迷ってる冒険者達を地上に送り返す仕事でもしてみれば?そうすりゃ冒険者達から狙われることもなくなるんじゃない?」 「おお!なるほど!冒険者視点の貴重なご意見をありがとうございます!」 地上への案内を得てよしっ!とガッツポーズをとる埴井。 その拍子に思いついたアイデアも、どうやら受けが良かったらしい。 ステージの下に居る幽霊達からもおお、なるほど、その発想はなかった、脚線美が実にけしからん、等、賞賛の声が上がっている。 「いや、あなたのような素晴らしい人に出会えて本当によかった。その見目麗しいお姿と、それに負けない清く澄んだお心をお持ちだ。私も本当に多くの冒険者を見てきましたが、あなたほどのお方に出会ったことは一度としてありません」 「ふ、ふん!大げさね!」 「いえいえ、大袈裟ではありません。私が幽霊をやってきた30年、出会ってきた400万人の冒険者の中で、あなたこそが最も優しい心と、優れた知恵と、美しいお姿をしています。宇治の橋姫もかくやとはまさにこのこと」 「宇治の……何?」 自分を褒め称える言葉の中に耳慣れない単語を聞いて困惑する埴井に、夢追がそっと耳打ちしにきた。 「宇治の橋姫っていうのは古い御伽噺に出てくる、都を守る神様ですよ。美人として有名なんです」 「へえ。……ってことはつまり?」 「あの幽霊さんは埴井ちゃんがとんでもなくかわいいって言ってるってこと」 夢追の話を聞き、思わずにやけそうになる顔を引き締めながら、埴井は心の中でグッとガッツポーズを決めていた。 やっぱり……私は目立つべくして目立つ存在なんだ! なるべく冷静を装いながら、念を押すように埴井は幽霊を見据えた。 「へ、へえ。……私、そんなに綺麗?」 「はい、それはもう。とても言葉で言い表せるものではありませんが、あなたの前では野に咲く薔薇も頭(こうべ)をたれ、空にかかる虹も姿を隠し、そのお声の前にはどのような楽器も鳴りを潜め、その瞳の輝きと比べればエメラルドもただの土くれ同然……」 「ちょ、ちょっと!もういいから!さすがに恥ずかしいわよ!」 「は、左様ですか……」 耳まで真っ赤になりながら身をくねらせる埴井と、そんな埴井を見て女子高生カワイイ、けしからん、実にけしからん、いいぞもっとやれ、等、ステージ下の幽霊達が異様に盛り上がっている。 そんな様子を見ながら、何この状況どうしようと口を出せずに傍観する夢追と蜂達。 三者の思惑が入り混じる、熱気の篭った空間の中、少しだけ落ち着いたらしい埴井はステージ下を見下ろしながらうっとりとした表情を見せた。 「ふふ……やっぱり私、目立つわよね!目立ちまくってるわよね!」 そんな埴井を見た進行役の幽霊は、何やら怪しげなものを横にいるサポート役の幽霊に持ってこさせ、そのアイテムをうやうやしく埴井へと差し出した。 「あなたはどうやら“目立つ”ことへ並々ならぬ情熱を傾けているご様子。こうしてお近づきになれたしるしに、我々の秘蔵のアイテムを差し上げましょう。これを身に着けていれば、いつでも周囲の視線を集めることが出来るといういわくのあるマジック・アイテムです」 差し出されたものは―― ねこみみバンドと肉球てぶくろであった。 「えっ」 埴井葦菜、本日三度目の間抜けな声を漏らした。 「いや、ちょっと何よこれ。これのどこがマジック・アイテムなのよ。こんな恥ずかしいもの着けられるわけないでしょ!」 慌てる埴井に対して、進行役の幽霊はどこまでも落ち着いている。 「いえいえ、これは確かにマジック・アイテムです。なんとこれを身に着け“にゃんにゃん”と喋った場合の視線釘付け率は100%!母数は我々幽霊仲間のみですが」 「それあんたらの性癖暴露してるだけでしょ!」 「しかし今これを使われれば目立つことは確かですが」 「うっ!」 目の前の幽霊の話を聞いて、その目立つという単語に心惹かれるものがあるのは確かだ。 しかし、流石にねこみみバンドに肉球てぶくろは…… 欲望と理性の狭間で揺れ動きながら、ふと埴井がステージ下に目をやると…… 女子高生のにゃんにゃん!、けしからん、本当にけしからん、あああの足に踏まれたい…… 皆の注目が自身に一点集中していることを感じ…… ああ、私は今、確実に目立っている…… そう実感したとき、埴井の手は自然とねこみみバンドのほうへと伸ばされ―― 『正気に戻ってくれー!』 「ダメよ埴井ちゃん!」 緊急事態と見て取った蜂達と夢追が慌てて埴井のことを取り押さえた。 「な、なにすんのよあんたたち!私が目立つのを邪魔しようっての!?」 「ダメだよ!それで目立っても人間の尊厳とか、色々大切なものを失うよ!」 「あんた人に人間の尊厳とか言えるクチ!?」 『頼むから少し頭を冷やしてくれ!』 「なによあんたたちまで!離しなさい!私は今ここで最高に目立つ存在へと進化するのよ!」 「それ悪目立ちって言うんだよー!」 沈みゆく太陽に照らされ、オレンジ色に染まった希望崎学園の校庭。 帰宅部の生徒達は既に帰り、部活動に勤しむ生徒の声が近く、遠く聞こえる。 校庭隅の木陰に、くたくたになった体を投げ出して倒れ伏す女子生徒が二人。 互いに相手の顔を見ることもなく、木の枝越しに見える赤い空を眺めている。 「旅行ってさ」 「うん」 「なんかテンション上がるよね」 「うん」 「後で思い返すとなんでこんなもん買っちゃったんだろってお土産とか買い込んでさ」 「うん」 「……旅行のテンションってさ」 「うん」 「怖いね」 「……うん」 「帰ろっか」 「そうだね」 互いに互いの恥ずかしいところを見せ合ってしまった埴井と夢追。 何も言わずとも相手が言わんとしていることは通じ合った。 ――今日のことは歴史の闇に葬り去ろう。 こうして少女達は思い返すと胸が痛くなり、それでもどこか懐かしく切ない青春の一ページをその心に刻んだのであった。 次の日。 「ちょっとあんた!何その校長みたいなボディスーツは!」 「いえこれは耐熱・耐衝撃に優れたただの防具ですが何か」 「あんた昨日ので懲りたんじゃないの!?」 「それを言うならあなたの右手に握られたそのねこみみバンドと肉球てぶくろはなんでしょうか?報道部員魂が騒ぎますね」 「いえこれは昨日持ってきちゃってたから今日返しにいこうとしてるだけですが何か」 「……」 「……」 「……」 「一緒に行こっか」 「うん!」 『本当に懲りないんだから……』 ――fin 「あれ?昨日と様子が違うよ!?」 「何ここ自動生成ダンジョン!?」 「私のドラゴンはーーー!?!?」 「私の晴れ舞台はーーー!?!?」 ――こんどこそfin
https://w.atwiki.jp/pendange/pages/75.html
鳥取SS 『書いてて自分でもなんだかよくわからないSS』 『Fleeting dreams , more so reality』 『鳥取軍部下士官手記』 『或る少女の神話』 『書いてて自分でもなんだかよくわからないSS』 ザザッ、ザザッ。 規則正しい音を立てて大地を蹴り走る。 傍らを走る部下の顔に焦りが浮かぶ。 恐らくは皆、いや私ですら同じ顔をしているのだろう。 「隊長!!殿(しんがり)の部隊より通信!!『ご武運を』との事です。」 通信兵の鳴き声に近い叫びが響く。 「通信…途絶しました!!」 「た、隊長!!」 部隊に動揺が走る。 このままでは済まされない。 前方に光が見える。 「次郎は!!後に残った者たちは勤めを果たした!!前を見ろ、じき腐海を抜けるぞ!!」 鳥取大砂丘に突如として出現した巨大菌類の森、“腐海”。 うかつにも足を踏み入れた代償は大きかった。 希望崎学園においてもっとも砂漠環境に適応した我々が砂地以外に足を踏み入れた事が失態だったというのか。 しかしこれよりは砂地。 このまま好きにさせるものか。 多くの部下を弟を盾にしたこの報いを、奴らに味あわせてやるのだ。 「希望崎学園砂漠斥候中隊はこれより戦闘に入る。砂上で我らに勝てる者など居ないことを奴らに教えてやれ!!」 「サー!!イエッサー!!」 ザザザザザッ。 足音が渇いたそれに変わる。 菌類の領域は超えたのだ。 どおん!! 後方で砂煙が…胞子が巻き上がる。 「敵影発見!!数は3!!」 巨大な茸を食い破るようにして巨大な蟲が出現する。 鈍い光沢を放つ体。 鋭く光るシュレッダーめいた口がガチガチと金属音を発している。 その後ろを音もなく得体の知れない白い何かが蠢きながら進んでくる。 「アハ!!久しぶりの苗床!!みんな喜ぶわぁ!!」 おっとりした口調でありながら砂の上を少女が胞子を巻き上げながら爆走してくる。 頭にはキノコが生えている。 あの腐海の主だろう。 「兵を真っ二つに分ける!!敵を両翼から挟撃せよ!!」 「イエッサー!!」 あの菌類の森で多くの同胞を失った。 この事実を希望崎学園に伝えねばならない。 「新入り!!お前は先に行け!!情報を希望崎学園の仲間に伝えるのだ!!」 「…しかし!!兄さん!!」 「隊長と呼べ!!今は通信兵としての務めを果たせ!!お前の補給能力はここよりも仲間のために役に立つ!!」 「…了解…しました!!」 「安心しろ。俺たちが砂上で負けることなど有り得ない!!行け!!」 「はいッ!!」 やつはまだ若い。 しかも戦闘向きの能力を持たない。 通信、補給としての能力はこの戦後にこそ生きるはずだ。 まだ戦闘経験も少なく新入りと呼ばれている。 我々の部隊ではある程度の任務を経験してから名前が与えられるからだ。 新入りが走っていく。 新入り…弟の背中を見送る。 「隊長…」 「すまないな、副長。私も身内に甘い。」 「いえ、気になさらないでください。我々は隊長の判断を信じます。」 「ああ、帰ったらヤツにも名前をつけてやらないとな。フッ…さあ逝くぞ!!反転せよ!!我ら希望崎学園砂漠斥候中隊は砂漠戦のプロフェッショナルだ!!」 「サー!!イエッサー!!」 部隊を二つに分け一気に反転左右より敵を攻撃する。 「あれ?苗床がもどってきたよ?アハハ、しあわせ~」 「…、んふぇおうぃ…」(虚空から響くような虚ろな音。蠢く白い者から発せられた) 「ギチギチ!!」 やつらは油断している。 我々を見た目で判断して侮ったか。 砂漠では有利だと思ったか。 敵に迫る。 ここだ!! 「サンドクロスフォーメーション!!」 「イエッサー!!」 更に兵を二つに分け敵の直前で進路を変更。 敵とすれ違い交差する。 「あれ~?」 「にえおぃ…もぅづさ?」 待ち受けていた敵の攻撃を紙一重で避ける。 これこそが砂漠での機動力を活かした我々の必殺陣形。 動揺した敵を前後左右から一気に襲い殲滅する。 「敵を十字に切り裂け!!我らの圧倒的な勝利だ!!」 勝った!! 次郎!!お前の犠牲は無駄では…。 「敵をfree!にすると思ったのか?」 「な、なんだと…」 足を掴まれた。 砂の中からスイムキャップとゴーグルを装備した若い男の顔が除く。 「ぎやああああああああああああ!!」 「た、助けてください。隊長!!隊長ォ!!」 なんだ、なんだこれは。 敵を後方から襲うはずだった部下たちの体に、みっしりと黒い何かが蠢いている。 小さな蟲、蟻だ。 右の部隊の体には無数の針が突き立っている。 あのサボテンは…動いているのか? 謎のロボットが電撃を放っている。 副隊長のメガネがハンマーで打ち砕かれそのまま頭を割られて死体となっている 無数のキノコを体にから生やして倒れこむ者たち。 巨大な金属甲鱗のワームに食いちぎられる者たち。 白い異形に飲み込まれる者たち。 それらは希望崎学園砂漠斥候中隊。 私の部下だった。 「まったく…伏兵も読めないとはな。お前たちは誘い込まれたのだ。その程度で砂漠戦のプロフェッショナル気取りか?」 軍服を着込んだ少女が呆れ顔で部下たちを駆逐しながら歩いてきた。 「ナチスのロンメル将軍の伝記でも読んで砂漠戦を勉強しなおすのだな、もっとも、いまからお前たちは生きたままキノコの苗床だが」 「馬鹿な、馬鹿な。」 「君たちは囚われのバタフライだ…RAGE ON…」 砂の中を自由に泳ぐ男が呟く。 私は、砂の中に引きずり込まれた。 希望崎学園砂漠斥候駱駝中隊。 隊員、ラクダ135匹死亡。 生き残りラクダ1匹。 生き残ったフタコブラクダのオスはこの事実を希望崎学園に立派に伝えた。 彼は戦闘能力を持たない。 給水するのみである。 顔はなんかムカツクし、モノ食う時クッチャクッチャ言う。 しかし、家族を仲間を失ったというのにその瞳は意志の光を失っていない。 何故かメンタルが異常に強い。 彼の名前は…まだ、ない。 『Fleeting dreams , more so reality』 ――鳥取砂丘高校、談話室 様々な大小の魑魅魍魎に合わせたサイズの椅子と机(と、キノコ)が用意されたこの巨大な部屋環境は、普段から生徒たちの憩いの場として人気を博している。 だが、現在の部屋の主はただ一人である。部屋の隅の小さな椅子に掛け、腕を組み沈思黙考する少女のみ。 彼女を恐れ、その周りに近づくものはない。 正確には、彼女の取り巻きを恐れて。 「おい、見ろよ……“女王”だ」 「“女王”が御機嫌斜めだな……恐ろしい……」 「おいおい、迂闊な話は止せよ……“近衛兵”がどれだけ見回ってるかわかりゃあしない」 その近づく者無い談話室に、一人近づく姿がある。 凛とした印象を抱かせるその少女は、対異邦(きぼうさき)戦を見越して集められた魔人集団の一人である。 そして机に突っ伏し、うんうん唸り始めた少女も、同じく招集された魔人であるのだ。 「新垣さん」 新垣と呼ばれた少女、新垣華は顔を上げ、入ってきた少女――南崎秀華を漸く認める。 「ニャn……南崎先輩」 「今の噛み方は何……。まあいいわ、もうすぐ作戦会議が始まるわ。 こんな所で油を売ってないで、みんな待ってるから」 「…………はい」 返事もそぞろな新垣の顔は、お世辞にも明るいとはいえないものである。 ――学級委員長である私なら、人並みくらいに相談に乗ってやる力も、その義務もあるだろう。 後輩を前に、南崎はそう思索を巡らす。 できる限り刺激しないような、最大限努力した優しい声音で、新垣へ問いかける。 「悩み事?聞いてあげてもいいけど?」 「先輩……」 潤みかけた目で、南崎を見つめる新垣。どうやら彼女の努力は実を結んだらしい。 「……先輩、私、夢があったんですよ」 抗争を控えているにもかかわらず、いや、だからこそか。 稚気じみた話をする、と南崎秀華は微笑ましく思いかけ、 「――私、女王になりたかったんですよ」 すぐに冷淡な平静さを取り戻した。 「みんなそう呼んでるじゃない」 「違うの!」 机をバンバンと叩き、新垣は反駁する。 「女王ってのは……王砂さんみたいな感じがよかったんですよ! ああやって、砂泳部の女みたいな名前のマッチョイケメン四人衆に神輿担がせたり! ショタっ子侍らせたり、ああいうイケメンパラダイスを!そういうのがよかったの!」 拳をうち、滔々と語る新垣。ただ彼女の目は、微かに憂いに曇っていく。 「それが、にゃんで……」 「ニャン!?」 「すみません!なんで! なんで蟻にたかられてるんですか……?」 「……さあ?」 新垣は更に声を荒げる。 「こんな仕打ちがありますか!?こんな境遇に置かれたことのある人が他に居ますか……?」 「……蛭神さんは?」 「蛭神さんは別です」 「そうね」 「とにかく、私だって普通の女王に戻りたいんですよ。王砂さんみたいにああいう憧れの感じの――」 それを普通とは言わないと思うけど、という疑問を飲み込み、彼女は談話室のすぐ外に警戒をやる。 彼女らを取り囲んでいる、複数の影。 人間サイズの巨大な昆虫めいたシルエット。 鳥取において勢力を広げる、エンジニアリ(学名:Tottorius TechniciAnts)が搭乗する二足歩行兵器である。 顎の巨大な牙(ブレード)が禍々しく煌めくその姿は、近寄ろうとする意志を削ぎ落とすには十二分である。 「げっ」 「そうか、そうだったのか……」 蟻甲兵の一人が、感慨深げに呟く。 「我々は思い違いをしていたのかもしれない……姫、あなたは」 深刻そうに話を切り出す蟻達を見て、新垣華もしおらしく体勢を縮め声を絞りだす。 「あ、はいそうなんですよ……すみません今までずっと黙ってて……」 「――高みより見下ろしたかったとは。今まで気づかず済まなかった。さあ、私の肩に乗りたまえ」 「え、いやいやいやそういうことじゃないんですけど……!」 蟻たちは新垣に詰め寄り、南崎を輪の外へと追いやっていく。 「貴様!抜け駆けは許さんぞ!私の方に乗るのだ!」 「殿方は下がっていてくださる?選ばれるべきはこの私ですわ!」 「待ちたまえ、この僕こそが姫の騎士に最も相応しい筈だ!さあ!さあ!」 「……先に行くわね」 そそくさと退出する南崎秀華。 自分の背中に呪詛の言葉を投げかける少女を残して、彼女は会議の場へと歩を速めた。 『鳥取軍部下士官手記』 我が鳥取砂丘高校は厳しい自然に囲まれた、決して快適とは言えない環境の中にある。辺りに広がるのは緑なす豊穣の地とは程遠い不毛の砂丘地帯。ここではコップ一杯の水を巡って殺し合いが起こる光景さえ、取り立てて珍しいものではない。 だが、決して無法地帯ではない。 荒れ果てた地に秩序をもたらすのは、鉄の規律で統制された武装集団『軍部』。学内の治安を守り、外敵を撃退する任務を果たす存在。本来はただの部活動の一つに過ぎなかったそれを圧倒的なカリスマで纏め上げ、近隣の諸校にも類を見ない卓越した武力を持つ戦闘組織へと生まれ変わらせたのが現在の『軍部』指揮官である一七千(にのまえ・なち)その人である。 苛烈にして冷静、暴力と策略を両輪の戦車とする彼女は『軍部』を率いて度重なる戦果を上げ、瞬く間に我が校に反抗する敵を制圧し、鳥取砂丘高校が実質上の鳥取の支配者となる立役者となった。その功績と軍事力を背景にした発言力は鳥取砂丘高校の指導者さえ決して無視できない。『軍部』の中でも血気盛んな新兵(いちねんせい)等はクーデターによる政権奪取を口にして憚らない者も居るが、七千司令官自身は「軍人は戦闘こそがその本分であり、統治は我らが責務ではない」と野心を膨張させる事なく『軍部』の組織熟成と任務達成に情熱を注いでいる。──────────少なくとも、そのように振舞っている。 『軍部』の戦闘力の高さは、敵に対するよりもなお激しい兵士訓練に支えられている。烈火の如く熱く、氷雪の如く険しいと恐れられる入部調練を受けた後では、中学では番長でならした暴れ者の戦闘魔人も従順な軍犬と化し、生まれてこの方取っ組み合いの喧嘩などした事もない内向的で貧弱な非魔人の少年でさえ勇猛果敢な兵士へと変貌する。調練の指揮を取るのは無論、七千司令官である。 『軍部』内外で無慈悲なる戦闘機械として恐れられる七千司令官だが、その強圧的ながらも自信に満ち溢れた言動に魅せられて密かに慕う者も少なくない。その証拠に「校内踏んで欲しい美少女ランキング」「校内唾を吐きかけて欲しい美少女ランキング」共に堂々の第一位を獲得している人気ぶりで、昨日投票結果が公開された「校内アナルを犯したい美少女ランキング」でもトップの栄冠に輝いている状況である。 ちなみにそれぞれの秘密投票の首謀者は直ちに特定逮捕され、いずれも背骨粉砕骨折するまで軍靴で踏み潰されたり、一晩中硫酸を頭頂部に少しずつ垂らされたり、肛門に大砲の砲弾をぶち込まれて悶絶失神する等、それ相応の報いを受けている。 全く、愚かな者たちだ。 司令官殿の魅力は何よりもあのおっぱいだと言うのに! 開催するコンテストが間違っている! おっぱい! おっぱい!! おっぱい!!! 「…………と、この手記には書かれている訳だが。これは貴様の私物で間違いないな?」 駱駝の革を鞣した表紙の革手帳を鋼鉄の義手で摘み上げ、女軍人は底冷えする瞳で部下の伍長を見やった。 「あががががが…………!?」 失禁寸前で意味のない呻き声を上げる伍長。砂丘に棲む魔獣さえ恐れさせる強烈な単眼邪視に、彼は全身麻痺を起こしたかのようにただ震える。 「貴様にはどうやら特別調練が必要なようだな。何、命までは取らん。貴様のように低俗で下劣な品性の持ち主であろうと、戦場では弾除け程度の役割は果たせよう」 至極あっさりと女軍人は言い放つと、鋭い眼光を放つ。 「怯えているようだが、心配する必要はない。今から貴様は『早く戦場に出て一思いに名誉の戦死を遂げさせてください』と泣いて頼む程度の目に遭う訳だが…………何か最後に言いたい事はあるか?」 地獄の盟主よりも酷薄な最後通告に、伍長は追い詰められた人間が浮かべる奇妙な絶望と諦念、そして歓喜の入り混じった表情を浮かべた。 「連れて行け」 引き連れていた部下の一人に伍長の処分を命じ、七千は思考を巡らせた。 ──────────このところ、軍紀が乱れている。 それは恐らく、いや間違いなく希望崎学園の影響だった。かの集団には退廃と逸脱を促進する負のカオスが満ちており、悪疫の如く砂の地を蝕んでいた。 逼迫する水情勢。だが、それ以上にこの地を脅かす危険思想。 ──────────最早、開戦は避けられない。 小競り合いでは済まない、血と鉄による本気の闘争。お互いの存在、生き残りを賭けた戦い。 七千の口元に愉悦の微笑が浮かぶ。その身体に流れる血は、熱い。 懸念が一つ有るとすれば、それは戦いの勝敗ではない。 あまりの非現実的事態に皆、思考を放棄している事実。 何故。 如何にして。 或いは──────────誰が。 遠く離れた地から、希望崎学園を此の地へと招き寄せたのか。 その真実を知る為の手がかりは未だに現れず──────────聡明な七千をして、知るすべはない。いや、他の誰を持ってしても叶わないだろう。 何故ならば、それは──────────。 『砂漠ダンゲロス本編』及び『????』に続く 『或る少女の神話』 「あれ? 先輩、今日は帰りですか」 「珍しいですね。どうかしたんですか?」 二人組の少女に背後から声をかけられて、一刀両断はびくりと肩を震わせた。 「う、うん……。ちょっと、体がだるくって……」 必死に目をそらしながら答える先輩を、じーっと疑いの目で見て、二人は、 「ほら、てるこ、昨日さ……だから、きっと……」 「あ、そゆコト……?」 顔を見合わせ、にひひー、っと同時に笑った。 「うひひ、先輩。じゃあ、また明日」 「おさるみたいになっちゃダメですよ~」 と、いたずらっぽく念押ししてからトテテと走っていく。一人残された一刀両は真っ赤な顔をしながらも、彼女も飛ぶようにして下宿へ戻った。 *** 「うッ、ひいっ……あふっ……」 下宿に戻った一刀両はすぐさまセーラー服を脱ぎ捨てお布団の中に潜り込んでいた。 そして、中指で自らの股間をおそるおそる刺激し始める。 ――うう……しゅ、しゅごおい、しゅごいよ……これ……ひゃ、ひゃふう……! そう、純情な少女、一刀両断はついに知ってしまったのだ。己の股間を刺激するという行為を! それは昨日の部活明けの着替え中のことだった。ふとした弾みから、てるこに「先輩って、白金先輩のコト考えながら股間いじったりしないんですかぁー?」と訊かれた一刀両は、その場では何がなんだか分からずに、ただただ鼓動ばかりを脈打たせていたのだが、訳も分からぬまま夜に布団の中でそのことを試してみたところ、これが、なんだかとにかくスゴかったのである。 これまでの一刀両はお布団の中で白金のことを考え、悶々とする夜を過ごすのが常だった。「先輩のことを考えると、どうしていつもおぱんつが濡れてるんだろう……」と不思議に思ってはいたが、自らの力で股間を刺激するという発想には至らなかった。大体、毎日アベレージ4時間ほど布団の中で悶々としてから眠りに落ちていたのだが、昨日からはそれに指先の動きが加わったのだ。 当然、彼女の興奮は凄まじいものがあった。とてもじゃないがやめられなかった。こんなことがあるなんて彼女は知らなかったのだ。今日の学校もよっぽど休もうかと思った。それでも彼女は鉄の自制心で登校し、日中も「部活が終わったらすぐにおうちに帰ってやろう……」と思っていたのだが、昼過ぎた頃から頭がフットーしそうになり、もういてもたってもいられず、教室の中で誰にも悟られぬように少しだけ股間を触って、漏れそうになる声を必死にこらえたりしていた。そんな具合だから、もう辛抱たまりません!とばかり、彼女は授業が終わるや否や部活になど目もくれず下校しようとした。その最中、先に書いたとおり、てることムツキの後輩二人に呼び止められたのだが、その時の一刀両は、家路までの僅かな時間さえも我慢できずに右手が股間にセッティングされていたため、二人の後輩に己の心理をズバリ見抜かれてしまったのであった。 いまや、家でひとりで布団にくるまれ、もはや誰にも邪魔されることがなくなると、一刀両の行為に歯止めをかけるものはいない。彼女はいつもどおりに妄想する。大好きな白金先輩と真剣で立ち会う己の姿を。自分の一刀があえなく交わされ、先輩の固くて長いものが己の体に深々と突き刺さる様を。先輩の刀が内蔵をぐりぐりとえぐり、幾度となく繰り返し突き刺さる絵を――。最初はシミュレーションのはずだった。来るべき先輩との決闘に備えてのイメージトレーニングのはずだった。いつからだろう。一刀両がこの妄想に囚われて股間を濡らし始めたのは。そして今、彼女の指先はその妄想に更なる刺激を加えているのである。 普通の少女であれば、このような妄想に遊びがら股間をいじくる己を変態だと自覚し深い絶望に襲われたかもしれない。しかし、純情素朴な少女、一刀両にはそのような理解すらなかった。今、自分が激しく興奮し、おぱんつをびしょびしょにしていることの意味さえ分からなかったのだ。「おさるのようにならないように」との後輩の助言もまるで無駄である。魔人の体力をもって、一刀両は16時に帰宅し、23時を過ぎた今となってもなお「イメトレ」を止めぬのだから。 しかし、流石の彼女も興奮が度を極めてきた。既に白目を剥き口から泡を吹いている。絶頂に達するのは目前と思われた。 ――だが、その時、彼女を異変が襲ったのだ! いつものとおり、大好きな白金先輩を脳裏に思い浮かべ、先輩の長くて硬いものが自分の体に深々と突き刺さる様を妄想していた一刀両だが、その先輩の姿が…………ああ! どうしたことか!! 唐突に、33歳の知らないおっさんの姿に変わってしまったではないか!!! だが、もう彼女には止められない!!!! 「ひ、ひゃあぁあん!!!! し、知らない、おじさんッ! 知らないおじさん大好きぃいい!!! しィ、知らないおじさぁんッ!!!」 彼女は絶頂に至る直前まで、必死に白金翔一郎の姿を脳裏に呼び起こさんとした。だが、ダメなのだ! どうしても白金の顔が33歳の知らないおっさんの顔になってしまう!! しかし、一刀両の指先の動きはもう止まらない! 「しィ、知らないおじさあああん!! あッ、あああッ!! ら、らめぇえ! 知らないおじさん、らめえええっ!!!」 知らないおじさんの胸の中で抱かれ、一刀両はついに絶頂へと達した。そんな……どうして……こんなはずじゃ……そう思いながらも、彼女は仄かな幸福感を覚えて、知らないおじさんの腕の中で安らか眠りに就いたのである……。 *** だが、異変は、ただ一刀両断ひとりに生じたのではなかった。この日から世界は変わった。輝く未来へ向けて、女子高生たちは最初の一歩を踏み出したのだ。 そして、二百年後――。 「高校を卒業するとね、私たち、どんな人のことでも妄想しながらオナニーできるようになるんだって」 「えっ、そうなの……!?」 クラスで女子高生たちがたわいないおしゃべりに興じている。 「中学生まではそうだったでしょ? クラスメイトの男の子とか、ジャニーズのコトとか、考えながらオナニーしてたじゃない?」 「うん、それはそうだけど。……え。でも、知らないおじさんは、どうするの?」 「別に禁止されるわけじゃないから。知らないおじさんのコト、考えながらオナニーしてもいいんじゃない?」 「知らないおじさんから離れちゃうのって、ちょっと寂しいよね」 「なんていうか、知らないおじさんって安定感があるっていうか」 「ウン、なんだか、おうちみたいだよね。いつでも帰れるっていうか」 「辛いことや悲しいことがあっても、知らないおじさんはいつもいてくれるし……」 少女たちは知らないおじさんの話で盛り上がっている。これは日本だけのことではなかった。世界中で同じような光景が繰り広げられているのだ。だが彼女たちは知らない。自らを犠牲にすることも厭わず、概念となってまでも女子高生の幸せを願った一人の男がいたことを――。彼女たちは知らないし、それを知る必要もないのだ。名を残す必要はない。感謝される必要も、愛される必要もない。ただ、ほんの少しでも世界が女子高生たちに優しくなるならば。それだけで男は幸せなのだから――。
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/14.html
トップページ>SSの時代の世界 ここで扱っているSSは、 らっちぇぷむ氏によって創造された架空世界に存在する 「帝國」を共有舞台にしています。 書き手によって多少の違いはありますが、基本的におなじ世界を共有する努力がなされています。 「現在」 SSの書かれている共有時系列を、仮に現在と呼称することにします。 現在の帝國の情勢 帝國は内戦を終えて復興状況にあります。 政治的には極めて安定し、国外からの干渉を撥ね退け、必要ならば逆襲や懲罰すら行う軍事力を持っています。 人口はおよそ数千万 帝國正規軍常備30万を保有しています。 およそ30強の家門があり、またおよそ50数柱の機神があると言われています。 南方辺境情勢 別途記載してこちらへ 東方辺境 東方辺境領の帝國帰属は、比較的新しい時代のことであったらしい。 沃土と、鉱物に恵まれた領域で、地域において豊かさを享受していたが、やがて魔族の圧力と、帝國との狭間で、 帝國側へ近い領域は、東方辺境として帝國に併合されたらしい。 その後、東方領域を巡って帝國と魔族との間で激しい戦いが行われた。 東方辺境候レイヒルフトの登場と、彼による魔族エドギナ大公領併呑は、帝國史に残る一大功績であった。 そしてこの後、帝國は内戦に突入する。 現在、東方ならびにエドギナ大公領は極めて安定した状態にあり、帝國経済、人材、資源の源となっている。 この状態を維持が、東方貴族らの総体としての意向である。 こちらも:東方辺境 北方 内戦後期の北方辺境候グスタファスとの十年にわたる戦争によって 北方は激しく疲弊した。 現在においてもこれは変わりない。 北方周辺国オスミナ 帝國北方辺境領貴族による機会主義侵略によって、大事件が巻き起こる(`ー´) 現在の帝國の政治情勢 皇帝リランディア・ケイロニウス・ケルトリアを戴き、その夫にして東方辺境候、副帝レイヒルフト・シリヤスクス・アキレイウスによって統治されています。 副帝は、皇帝によって正規軍召集権を与えられ、帝國軍を統帥しています。 これまでの皇統についてはメモとして:帝國皇統系譜 絶対君主たる皇帝を、輔弼する機関としてさまざまな院機能があるようです。ただしまだ、皇帝を国家機関のひとつと定義づける思想は無いようです。 内戦(中?後?)を契機に、帝國臣民権利章典が成立し、貴族騎士平民の三身分を帝國臣民という統一した扱いに位置づけているようです。 元老院 帝國には立法機関として、元老院が存在しています。 元老院は貴族によって構成され、内部に様々な委員会を持ち、討論して立法する役割を果たしています。また枢密院や、執政官への人材供給も行います。 現在の帝國元老院には、闇族、魔族、獣人なども貴族爵位を与えられた上、議席を得ているようです。 枢密院 帝国の司法機関の最高位置にあります。 元老院が可決した法案が、過去の法律や、帝國の慣習法との整合性を確認し、これが満たされていなければ、差し戻しする権限を与えられている。 この機能はすなわち、より下位の法律審判、たとえば皇帝都市裁判所など、帝國国内における判決採決の妥当性を審議する機能でもあるらしい。裁判所は、行政不服申し立てなども受け付ける機能を備えるようであるから、枢密院の判断は立法と行政に対する司法として、事実上独立しているらしい。 執政院 帝國の行政機関を統括しています。それぞれの分野の行政を統括する省が置かれており、各執政官はそれらの省を指揮するか、行政上の権限を委任されて各地に派遣されたりしています。 宰相 字義通りの存在のようです。 「特に君主に任ぜられて宮廷で国政を補佐する者」 執政官 帝國の行政機関の長です。 選抜母体は元老院議員からとおもわれます。 皇帝より、特定の領域業務について権限を与えられる、国務大臣といっていい存在のようです。 軍 帝國正規軍:皇帝が統帥権を有する常備軍です。 辺境候軍:帝國にある辺境候によって召集された地方軍です。 諸侯軍:帝國の貴族諸侯が許しを受けて集合した地方軍です。 帝都 レス抜粋して別途掲載 こちらへ 教会 「帝國」は東ローマ帝国のような一種の宗教帝国です。 魔法が存在する世界に生まれた、宗教の一つだが、 自然存在する魔道の源に、人格神を想定しなかった。したがって人格神に帰依する形の宗教ではなく、世界の示す、あるべき人の姿への帰依こそが信仰の形であるらしい。 このあるべき姿は、八相を操った「人の子」なる救世主に投影されている。 非人間的な超越存在である、造物主「主」が、この世界を作ったとし、この世界の基本様相である八相を認識制御できるものが、人の中にうまれてくる。この「人の子」の現す力を、神の手に選ばれていない生身の人間らにも行わせることはできないか、という考えが、根本にあるらしい。 したがって、古代魔導帝国では、魔導研究の実際の論理的主柱であったようだ。 古代魔導帝國における、魔導研究の結果、この世界は非人格的超越存在を認めたらしい。これを、造物主「主」として認めたもの。同時に進んでいた魔導研究が、八相認識者を認め、人の子の存在を認めざるを得なくなった。 もって、世界実学と結合していった。 成立過程から、教会は二つの顔を持っている。 一つは、魔導研究集団としての顔であり、 もう一つは、もって成した魔導をして、非人格神「主」の世界にもたらす愛を、救世主「人の子」のやり方で、民へともたらす救済者としての顔である。 現在の「帝國」の成立に、魔族侵攻とその撃退がエポックとして強くある。この魔族撃退に大きな力を見せた機神は、古代魔導帝國の魔導産物であった。機神をよりよく使うためには、魔導研究に回帰せねばならず、「教会」は帝國の礎に自然に組み入れられたようだ。 帝國秩序として組み入れられた教会は、救済者としての働きもなしていった。 その論理は、以下のようなものである。 「神の財を隣人愛の実践のため」貸し出す機関でもります。よって、より多くの貸し出し枠を持てるということは、それだけ「神の信頼を受けた人」という信用を受けられるのです。 今の銀行が本来果たすべき、信用の創出を行う役割を担っているわけです。で、教会の会計監査は、元老院の重要任務の一つであり、教会から借りた金を返さないとか、横領するとかいうのは、まさしく「神に対する罪」扱いされます。 広大な帝國で、教会は自然に分化していった。 「人の子」へ近づくことを目指す正教会、カソリック的な公教会、プロテスタント的な新教会、ピューリタン的な清教会である。 帝國中央には、正教会が多く、南方には公教会、皇帝都市には新教会が多く、それぞれに社会規範上の要請があったらしい。それらは会い争う関係にあり、さらに原理主義的な清教会が生まれた。この教会内紛と、教会による排他的な富の集積が、帝國の富の流通を中世のレベルに押さえていたらしい。 レイヒルフトは、政治に対する宗教の介入を排除し、かつ信用創出機能を維持するために諸宗派の上に教皇(ただし世襲)を置いて、その会計と聖職者の人事権を握る事で、管理を目論んだ。 これが、内戦の原因の一つであったらしい。 最終的には、教皇を天皇のような象徴的存在とし、政治は副帝と執政官(国務大臣ですね)らの執政院と、議員で構成される元老院、そして教皇の諮問機関である枢密院(最高裁判所です)の三つに分権することを目論んでいるらしい。 レス抜粋して別途掲載 こちらへ
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/270.html
第一回戦【雪山】SSその3(大会後修正版) 白と黒の世界である。幾重の吹雪が影をなす。 山の中腹部から見下ろす景色も山も空も四葉のオムツも白い。オムツ? まだおしっこ少女(おねしょうじょ)なのだろうか? まさか。 200Kを下回る世界で下半身を露出し体内の体温安定剤(おしっこ)を放出する必要はない。五重の防寒具を着たまま股に力を入れたり抜いたりして四葉がぶるぶるっと震えると暖かい小便が下腹部に広がり、ほのかな母体回帰願望を思い起させる。じゅわじゅわ滴る前に手早く取り替えて外に出す頃には既に凍りつく。まさに「極寒の雪山」そのものだ。下見としてGoogleMAPで確認したことも無意味すぎた。佐倉光素を信用するなら雪山の(戦闘範囲内の)中腹な筈だ。 パキパキに凍ったオムツを洞窟の隅にほうって入口に近づく。雪のカーテンの合間合間にちらつく「黒点」に向かって念じる。 「モア」「モア」「モア」 何も反応しないことを見て四葉は息をつく。口腔に侵入する空気が痛い。 ――寒いな。この自然め。私を殺す気か。 四葉は指を振り念じる。 「モア」 パッと空中に生み出された白い塊は濃霧を生み出しながら落下する。 目線を落として塊を観察する。どうやらこの極寒の地で蒸発しているようだ。 「すごく冷たいものかや?」 雪に対して「炎」が得られるわけではない。 自然が「雪」という「寒さ」を武器にしているのならより強いより冷たい武器を得るだけだ。 極寒の雪山でさえ瞬時に昇華するような個体――固形窒素が召喚された。 「これをぶつければダメージ与えられるか?」 という考えは刹那で忘れた。相手も防寒しているだろう。露出が少ないことは命中範囲の狭さを意味する。持って投げれないだろうし、投擲武器類もない。せめてつまんで投げられれば……四葉は思い出した。 殺すべき敵の一人・聖槍院九鈴(せいそういんくりん)の奇天烈な武器を。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 聖槍院は雪山頂点から高速移動で駆ける――滑る。 巨大トングの下刃をソリ代わりにしている。見事な体捌きだ(しかし48の大トングで1024つの小トングを自在に同時に操れる究極体トンゲリスト(トング・ジツ・マスター)と比べれば未熟だ)。 目指すは小さな洞穴。人が隠れられる程度の――人影がちらついてみえた洞窟。 下刃はソリ、上刃は屋根がわりにして滑走する。雪は当たらないが風がひどく冷たいだろう。しかし加速する聖槍院は平静である。なぜか? 彼女の魔人能力〈タフグリップ〉はつまんだものを決して離さず、保持し続ける。それは「掴んだものが失われない」と同義である。ゆえに、麓(ふもと)の空気を捉えた巨大トングの刃間は絶対に暖かいのだ。 ぐんぐんと洞窟が近づく。速度は加速の一途。トング滑走術は音速を超えうる。マッハ0.8直前の加速度。目前に目標が。音と並走する聖槍院。 轟音におびき寄せられ洞窟から人が顔を出す。人影は敵の侵攻に気付くや洞窟の中へ逃げ込む。 聖槍院はトング斜角を大きく傾けた。岩壁に思い切りぶつかる! しかし聖槍院は止まる気も――ましてや死ぬ気もさらさらない。 聖槍院は自身の体ごと洞窟にぶつけた。衝撃は超合金巨大トングであってもぐにゃぐにゃに。しかし聖槍院自身はまったくの無傷である。なぜか? 今は伏せておく。 さて、洞窟に隠れたる者――赤羽ハル。彼は熟練の殺し屋ではあったが、激しい爆発音と衝撃と、UFOを思い起こさせるひしゃげた巨大トングとのダブルインパクトで反応が0.5秒ほど停止。聖槍院は鰐の構え――トングの刃部を両手で添える、聖槍院流古式トングの超攻撃型(スタイル)。 「死ね」 言葉が打出るのと同時にトングのバネを8倍活用した打撃を放ち、みぞおちと頸にめり込む拳。さらに手を引きながらトングで両肩を固定(タフグリップ)。 聖槍院の奇襲&不意打ちは見事成功した。吐血する赤羽ハル。並みの魔人なら――いや、どんな魔人であっても鰐の構えがクリティカルに決まれば死ぬ、自(そうじ)負している。聖槍院は警戒心をさらに上昇させ、懐の脇に挟んでいた2ndトング〈YiSe〉を引き抜く。 ――なぜ赤羽ハルが聖槍院の攻撃に耐ええたか? 理由は一点。赤羽ハルが「日本銀行拳」の使い手だったことだ。彼は腹部と頸部に受けた衝撃をストップ高としてこらえ、株価と肉体のダメージは全身を覆う紙幣帷子に流す。 暴落した「呑気(情)」が即時上場廃止し「殺意(激おこ)」が上向きになる。この市場混乱により約1億個の細胞(パンピー)が負債を被ったが脳細胞(トレーダー)は「殺意(激おこ)」を大量購入したのだ――。 追撃を食らわせようとした聖槍院。それよりも早く赤羽は手を胸前でクロスし防御する――そのかたちで肩のトングを掴み、〈ミダス最後配当〉により換金した。力で外さなかったわけは、防御のかたちが崩れることと、素早く貨幣(ぶき)を手中に収めるためだ。これは考えたことではなく、経験則に基づいた行動だった。考える暇などない――聖槍院が突撃してまだ2秒も経っていない。 ――硬貨に換金し即撃ち込む。 そしてトング〈カラス〉が換金された。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 四葉はそう遠くない北北西から轟音を聞く。ラピュタの動力室が爆発した音だ。雪崩の危険を察知し外へ出る。雪は降っているが風は弱まっている。 上で雪崩が起こっていた。異様にきらめく色付きの雪崩が向かってきた。 「死ぬ!」 四葉は反射的に自らの能力〈モア〉を発動する。 雪崩に対してならより強い雪崩が生まれる。彼女が飲み込まれることはない。自身に対して安全なのが〈モア〉の能力の一部である。 ――より強い雪崩で下に誰かいたら殺す。 だが彼女は誤認していた。 色付きの雪崩は「雪崩」ではなく「換金」あるいは「発行」である。 より強い発行。 四葉は建物の中にいた。 召喚したものは「日本銀行」。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 聖槍院の持っていたトング〈カラス〉。 素材は隕鉄であり色も黒っぽいのでダークパワーが宿ってそうで強い。闇トング道者・トング太郎Jrは有り金はたいてでも欲しがっている。彼の総資産は約1兆円。 聖槍院九鈴は1兆円の中に埋もれ、押しつぶされた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 四葉が日本銀行を召喚した直後。 召喚した本人とはいえ、あらわれた日本銀行に驚いた(当然だ)。 何をすべきか――。どう勝つべきか――。 真っ先に思い浮かんだのは「対魔人用の金庫の中に閉じ込める」と「買収」。 前者の実現性は低いと判断。後者は二秒ほど真剣に考えた。 ――赤羽ハルは莫大な借金を負っているらしい。この銀行には金、金、金の山! 金「だけ」であれば買収も可能だろう……が不安も残る。どちらにしよう――二者択一で考える狭さは子供らしい。結局「できそうならどっちも」に。とかく新たなるMAP・日本銀行を知る必要がある。 コントロール室的な場所を探し出す前、四葉は服を脱ぎだした。すべて。幼児体型をあらわにしても寒くはない。むしろ空調がガンガン効いてて暑いくらいだ。すっぱだかになった四葉は床にゴロゴロ転がる。サービスシーンではなく、足跡を消すため、水を吸わせている。すっくと立ち上がって部屋札を見ながら小走り。すたこらさささ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 四葉が想定外の召喚をしたように、赤羽もまた想定外の換金をやってしまった。彼にとってはトングはトングであって、多少高くても1000円、安くて50円。ならば確実に10円に換金して即打ち込むべし――しかし実際は1兆円。 自らが換金した硬貨の雪崩に飲み込まれている。 彼は硬貨(10)を次々と紙幣(10000)に換金し、呼吸の確保に努めるが数(450000000t)には勝てない。流され飲み込まれ圧死する――かに思われたが、幸運にも流された地は日本銀行。 赤羽は、体中を覆っていた圧力の塊が朝露のように消えていくのを感じた。目をカッ開(ぴら)いて動物めいた半回転で立ち上がり周囲を確認する。正面、大きな受付の役所感、大手感、銀行感。背後、雪山ではなく硬貨の雪崩。しかし、雪崩は入った途端に消滅してゆく。なぜ? 答えは出ない。 悩むというのは答えがないからであり、答えがないものをいくら考えても無意義だ。 この銀行のような建物が何らかの結界として作用しているのだろう。それは金銭の侵入、つまり入金にのみ発動することかもしれない。銀行の力とうまく合致する。貨崩(なだれ)がやめば、この空間にも雪は入るのかもしれない。かもしれないかもしれない……想像だけを重ねることは無意味ではない。魔人同士の戦いであるから常識は通用しないが、あらゆるを密に対処するにはファジィに包み込む必要がある。抽象的に。 しかし、それにしても雪山に日本銀行とは。異常な空間だ。空調は暑すぎるほどバッチシ。赤羽はやや思案して防寒具を脱ぐ。室内戦ならば消音に努めなければならない。待つを待ちつづけるソファにジャケットをほおる。コッと音。 「おっと」濡れたジャケットの中から黒い――M10(ミリタリー&ポリス)――拳銃をつまみ出す。 「知ってるヤツ対策のつもりだったんだがなァ、銀行で金が使えんったァ、俺が負債者だからか、なァ?」 問いかけ。返事はなく、受付をひょいと乗り越え彼はふだん入らない領域へ足を踏み入れた瞬間に背後で爆発音が鳴り響く! 硬貨と硬貨がぶつかりあう高い破壊衝動が湧き上がる背後を注意、そこには「おおっ!」聖槍院九鈴が! 赤羽は急襲者の心臓狙い引き金がガチャリ。 !ダッ!ダッ! 二発の弾丸は聖槍院の合トング術にいなされる。 聖槍院は足を緩めず。無表情には少しの躊躇いも焦りも怒りも疲れも見えない。 3発目は頭部を狙い、はずす、4発目は頭部を狙い、かわされる。 やはり聖槍院はなおも赤羽に猪突猛進。両手にはトング。トング。そのトング。 「ちぃっ!」 赤羽は六発まで撃ち切り懐の紙幣帷子の一枚(10000円)を一万枚(1円)に換えて銀(アルミ)幕の煙幕を張らんと手をかけるがなんと紙幣帷子も消滅している! ――しまった。 動きを止めることはできない敵はすぐそば。服を破いて換金→わずか7円を、散弾銃のように噴射しつつ後ろに飛び退き、回れ右で建物の中へ。 男の脚力とはいえ、初速は遅く、つかまる――ことはなかった。 (赤羽の脱税はなかば合法のもので、7円は聖槍院の足肉をびしびしえぐりるのだ) 聖槍院は顔を苦痛に歪める前に、その端正な顔を思いきし絨毯に叩きつけた。こけた。起き上がるころには、赤羽の姿はない。 赤羽は左の戸を壊し右の戸に入る。500で人が通れる程度の穴を開けながら逃走しつつ思考―― ――奴の能力はなんだ! 巨大で超加速のトング、弾丸を止めるトング、全身に無数個張り付けたトング。能力の仕掛け自体は分かってる、固定だ。あの超高額トングを換金したとき、異常なほど肩の動きが鈍かった。おそらく関節レベルで固定されていて、だからこそ、無意識的にとはいえ、ミダスを使ったんだ。それはいい、それはいいとして問題はさっきだ、一発目と二発目はトングに「固定」された、三発目は俺が外して、四発目はかわされた。その次。五発目と六発目はたしかに命中したんだ、だけどまったく顔色を変えなかった! 赤羽は口から4万円を取り出す。金歯を換金。 ナイフを持つように4万円をかまえつつ、走る。階段。下りはない。駆け上がる。二階。三階はない。そう広くない。 長くのびる通路にかかる絵画。そのそばに、なにか服がある。雪解けでぐっしょりと濡れた、防寒具と、もこもこと、さらさらと、スポブラとパンティ。 「やはり高島平もいる、か」 敵:高島平四葉=小学生の情報は事前に仕入れていた。不可解なのは、その能力と、彼女の服がこんなところにほおり捨てられていることだ。どちらも同じくらい推理すべき情報だが、同時にこなさなければならない責務がある。 「……82000円か、ガキにしちゃあ高いな。ブルセラ込みか?」 赤羽は、廊下正面に立つ全裸の少女に向かって笑った。 ――挟み撃ちかよ。 「あのトングほど高くはないよ」 一兆円のトングを理解していったわけではない。あの銭の雪崩を起こした者は赤羽だが、原因は聖槍院にあると推測しただけだ。聖槍院についてはトング使いだとしか知らない。 動揺を隠す赤羽。 高島平四葉がゆっくりとあげる細く白い手、伸びきる寸前に地面が揺れた。 床が崩壊した! そして空へ吹き飛ばされる! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― おおっこれは赤羽にとっては想定外であったし、四葉にとってもまさか地がブチ壊れるとは思いもしなかった(億単位を手にした赤羽ならこれくらいできるだろうとは思ったが)。 張本人である聖槍院にとっても予期せぬ成果であった。 彼女は一階の待ち受け室に、まだいた。 彼女は両腕をクロスし、手のひらを伸ばし、四股を踏んだような格好のまま、きっかり一分、待った。 エネルギィが溜まるのを。 気が「固定」されずに流水のごとく流れるのを。 体内を駆け巡る気を、水が低きに流れるように、両手に貯める。 彼女の手には何も入っていない。 しかし彼女の手には、彼女の両腕がある。 両腕。 二本の腕。 お気づきだろうか? ――人間の両腕は、まさしくトングの形状である。 「聖槍院『九鈴』流奥義・沌殻螺死(トングアラシ)!」 叫べるものなら、きっとそのように叫んだであろう。 全身を挟むトングの大部分を「タフグリップ:解除」する。九鈴の身体は爆発的に弾け、回転とバネをフルスロットル。抑圧されて暴発寸前のエネルギィが、空を切る、渦を巻く、螺旋気流を放つ。身体が激しく回転する、巨大な竜巻を生み出す、肉体はボロボロになれども。竜巻は、違法建築の銀行を浮かび上がらせてしまうほど! 聖槍院が新たな地軸になったような錯覚を覚える間もなく、体に固定されていたトングがミサイルの速度で順々に発射され――単価2200000円の威力! 全身の気を込めた奥義で九鈴の体は奇妙な形に折れ曲がっているし、上腕骨は内部で一回転している。肉体の損傷を顧みない奥義。 嵐の中心にあった聖槍院の衣服はカマイタチに切り裂かれているし、頸部の自傷がひどい。大嵐のカマイタチで、自身の頸を綺麗にスパッと切断している。 目が、ぎょろぎょろと回る。 わお。 首に一文字の赤色が滲む。 彼女の背を見ると、カマイタチでズタボロになった上着が、いま、美しい切れ目に促されて、するりと落ちた。あらわとなったのは、銀色。銀色の鎧。肩と腰とを四点で固めた『トング帷子』。 トング帷子は、「聖槍院そのもの」をタフグリップする。帷子がきらめく。 光沢は一瞬で消える。 空が暗くなる。 顔をあげる間もなく、押しつぶされる。 塗りつぶされる。 正体は、雪。 聖槍院奥義の副作用で、雪崩が―― ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 宙に投げられた高島平四葉。彼女はまったく状況を把握できていない。 ぐるんぐるるぅうんと回転する視界で彼女は発動した――モアモアモア。 とかく目を見開いて。とかく感覚を研ぎ澄ませて。 巨大な岩巨大な岩お札巨大な岩固形窒素お札巨大な岩巨大な岩巨大な岩爆風爆風爆風トング巨大な岩 さまざまなものを召喚しつつ飛ばされる。 まだまだ上空へ、上空へ、上空へ。 明記しておくが高島平四葉は全裸である。 「モア――瓦礫瓦礫瓦礫瓦礫」 四葉の背に大岩が現れ、風を遮る。まだまだ上空へ。まだまだ上空へ。 四葉は閉じそうな目、凍えた瞼を気合入れて見開く。 閉じてしまえば発動できない。 発動できなければ四葉にはなにもない。 モア以外、なにも、一切、ないのだ。 四葉らが浮かび上がって五秒たつ。 視線が俯瞰で、山をやや見下ろす。真っ白な山肌にごちゃごちゃした場所があり、それが銀行跡地だと脳の片隅でぼんやりと認識する。 ぼんやりとでしか認識できない。 四葉は歯を食いしばり、発動。 「モア――」 ざっ、と音がした。 音がした気がした。 山の斜面を、狼が横に列をなして駆けるような影が走る。 あれは―― あの影は―― ふっ飛ばされる体が、ゆるりと、スピードを緩める。 四葉は賭けに出た、わらにもすがる思いで。 ――私にとっては安全なはずだ! 「無限回召喚(モア∞モア)!」 四葉は『無限回』のモアを発動した。 そして、 聖槍院の奥義の副作用で、雪崩が生まれ―― モアによって無限の雪崩と変貌した。 無限の雪崩とは? 「わぁ……」 邪気あるいは無邪気な感嘆を呟く。 無限回の能力発動して0.9秒後、上昇の頂点にあった四葉は、その二本足で、その裸足で立っていた。 足元は、雪。 景色は、雪原。 あたりに山はなく、雪、パラノマ。雪しかない。一面が雪だけ世界。あと青空。 見渡す限りの、大雪原。 ――状況を説明しよう。 まず、四葉は空中で『雪崩』に対してモアを発動した。 そのため、より強い雪崩が『四葉にとって安全な状態で』召喚された。 四葉にとって安全というのは、まず、四葉より低い位置で発生する雪崩である。山頂にいるものにとっては、いかなる雪崩も「安全」である。 よって、上空に浮かぶ四葉より低い位置で、無限回のモアが試行された結果、雪山は雪原と化した。雪崩が「崩れない」状態まで、均された。もっとも、山頂部だけが小山となって残っているが。 「おい審判! 聞こえてんのか勝ち決まったろうが私で! ア゙!?」 銀行壁の瓦礫の影でぶるぶるして歯がガタガタなっている。ふるえふるえの声で現れたのは光、と声。 「まだ決着はついておりません……」 空から忘れ形見の瓦礫やなにやらが落ちてきてズヌリと雪にめり込む、そのいくつかの内に人影がある。 「埋めれてなかっ…………た……?」 四葉は瓦礫の影から立ちあがりとどめをささんとした――が、咄嗟の動きに体がついていかない。膝が『タフグリップ』されたかのように、つんのめる。(寒さにやられたためであり、聖槍院は関係ない。) オイルではなく雨粒ばかりさしたブリキ人形のような動作で、巨大な銀行壁の成れ果てに手をついて立ち上がる。 「……動け、足ィ……」 苦闘むなしく膝からがくりと落ちる。 歯をむき出しに、怒る。身体から力が漏れていく。無理に心を焚きつけなければ今にも命の炎が凍ってしまいそうだ。 四葉はキッと天上を見上げる。宇宙を考える。 地球のことを考える。 地球は温暖化している。 地球が温暖化している「原因」を遡ってのぼってのぼりつめれば、犯人は太陽である。 敵は太陽。 「モア――太陽」 太陽がひとつ。 「モア――太陽」 太陽が、もう一億。 もはや地球に青空はない。空はミラーボール。空一面が黄色あるいは白色。太陽。太陽のみ! 夜なし! バカみたいな日差しが雪原に反射して、目も開けられない。色がなくなった世界に塗り替わる。だが四葉には関係ない。四葉にとっては『安全』であるからして。 「きもち、あったかくなったかな……」 えいっと四葉は立ち上がる。 視界は白塗りで、目に痛い黒が、いくつか散らばっている。その中で、ゆらりゆらりと動く影が1つ。人影、赤羽ハルの影。 「四葉ちゃんよ、いま、なにがどうなってる? なんだこの天気は、地面は、山はどこ行った、空はなにが起きた?」 四葉は一歩一歩距離を縮めていく。億の太陽が照っても、全裸の雪原では、体感気温は氷点下を超える。 ゆっくりと一歩ずつ一歩ずつ、歩み寄る。 「敵にそんなこと聞くなんて、スーパー殺し屋の名が泣きますよ?」 「そんな通り名、ねェよ」 赤羽は、落ちていた二本の棒――いや、一対の黒いトングを拾い上げる。 「さっき――そんなに前の話じゃないはずだ、銀行にいたとき、あのとき、お前、なんてった?」 ――あのトングほど高くはないよ。 「憶えてないよ」 「何年も昔のような気がするぜ、こんなおかしな空間だとよ」 赤羽の手中の黒いトング――四葉が混乱空中で召喚した聖槍院のトング、彼女の控えである「二番目のトング」より強い「一番目のトング」――すなわち〈カラス〉。 その値段はご存知の通り―― しゅるしゅるしゅると赤羽の手のひらで一枚の紙切れになる。 「一兆円札だ」 一兆円札! ――仮に一兆円札があるとするなら、それは、「赤羽自身の能力によって1兆円1枚=1万円1億枚に変換できる」。適切に換金できるものは適切な紙幣である。逆説的に一兆円はその価値を認められる。 一兆円札は一万円×一億の威力! 赤羽が一兆円札を横薙ぎにすると、はるか地平線――太陽と雪のはざまに糸のような裂け目が生まれ、広がり、ズレ、天球のふたはとれた。そこからのぞくコスモ。さらに宇宙の奥の奥まで斬撃は届く。点と点とが輝く地域、ノーマル宇宙をも、ズパッと切裂くと、外側、液体のオーロラが感触を持って燃え続ける空間がのぞき見える。 大宇宙すら切裂く〈桁違い〉の、核より恐ろしいオブ・ザ・最強兵器・カネ。 ――最強より「ちょっと」強いものは? 「こんなにお金、あってもね。使えないよね」 ゼロ秒で発現した、姿を隠すほどの十兆円札ピラミッドが四葉を守った。全宇宙で最も欲磁場の強い空間がポンと発生されている。 赤羽は、もう、驚くほかなかった。 ……言ってしまえば、赤羽の「殺し屋」という職は、サラリーマンである。 サラリーマンは奴隷である。奴隷をつかさどる商人は金の奴隷である。金はすべての王である。その王を、奴隷とすら思わず、空気とすら思わず、神のような振る舞いをしているこの小娘は――。 「モア」 四葉が掲げた手のひらの上に、黒玉がひとつ浮かぶ。 「全額、入金せよ。暗証番号は四葉ナンバーワン(4281)」 黒玉は渦を巻いて稲光を散らす。内部から槍のような影が走り、ピラミッドの山をとらえ、引き込み、闇の中へと取り込む。 赤羽の一兆円札を、闇がつかむ。物理的な力とは別の力によって、手のひらの金が奪われた感触がする。手から離れかける瞬間にミダス最後配当で換金。あの銭崩(なだれ)が再び発生した――一瞬だけ。すぐに、暗黒の中に、吸い込まれる。 四葉が鼻で笑う。 「きみが息巻いて使ってた一兆円札って、モアで出したトングでしょう? なら私のだね」 全てを飲み込んだ黒玉が、今度は立方体に形を変える。 「まっ、手間賃くらいはあげるよ。口座番号は――」 赤羽が青ざめる。四葉が唱えた番号は、赤羽が6000億円を支払うべき口座。 ――なにをする気だ! 「振り込んであげるよ6000億円!」 黒い物体から竜のような札束――札列が飛び出す。 赤羽は反射で身体を動かす。動きつつある身体を思考によってよどみなくサポートする。上着を換金して400円分の衝撃で地面にクレーターを作り、もぐりこむ。 思考。 ――あの暗黒物体は「出金モード」なんだ。奴は金を操る能力なのか? なら雪や空はなんだ? さっきは入金。だから今はミダスが使える、地面を経由して下から襲う。まめに換金していけば服代で殺れる。雪は柔い! ドン、ドン、と地が揺れる音が、四葉に近づいてくる。 雪原に浮かぶ6000億円の竜が、赤羽の作った坑道を追って遡る。 ドン、ドン、の衝撃は、四葉の前方1メートル前で止まる。 と同時に地表から金龍が奔出! 龍の頭は赤羽の肛門から侵入、そのまま突き上げるかたりで雪原上に姿を見せている。 「もいっちょ6000億!」 四葉が放った第二の龍が、赤羽の口から入り込む。悶絶する赤羽の腹が膨らむ。 「ああっ、口座(クチとケツ)がパンクしそうです!」 ついに赤羽の腹は、約3000億ほど呑みこんだあたりで破裂(バースト)した。 四葉の持つ黒い物体は、預金クレジット一体型カードより強い「なにか」である。銀行を発生させたとき、買収などの戦略上に役立つと思い作成した。カード作成中に分かったのだが、銀行になだれ込んだ小銭は、すべて、ある口座に入金されていた。 現在の入金相手と同一であるから、追尾機能で、赤羽を経由して振り込みできた。 「借金、返せてるといいけど」 四葉は爆散した赤羽の四肢から、服の形をしているところをはぎ取った。靴はぶかぶかだが、無いよりましである。 元銀行壁に戻って少しでも寒さを和らげようとしたら、元壁は、あたたかい。 ――あっ太陽一億はやりすぎたかな。 とか思いつつあおむけに。日向ぼっこ。うたたねいい気分。 太陽の大きさと星の大きさと、空の広さと地球の丸さを、足して掛けて割って引いて、いろいろ混ぜ合わると、後悔の念が強まってきた。 「まあ、私のせいじゃないし……」 明らかに自分のせいなんだけど。 「地球温暖化でも……でも……たくさん雪崩したから……イーブン……………」 疲労と寒暖の差。安心感。強敵の殺害。勝利の余韻。 四葉は深い眠りに落ちる。 二十分後。 まだ寝てる。 爆睡。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ……勝利してしまった! 忌々しい小娘! ……四葉(あれ)の能力って死んだら消えるんですかね。 ……あの憎きあれを殺すチャンスですよ! ……殺すなら今の内ですよ! なに躊躇ってんですか審議長! ……いや君たちが焦っているんだ。もしあれが起きていたら……あれが演技でないなら、即座に我らWL社が、あれの敵となってしまう。 「…………白ぶた……いや……」 ……絶対寝てます! ……確かにあれが死んでも天が元通りになるとは限りません! が! あれを殺せる数少ないチャンスなんですよ!? 「………………ちくわだあ~……三人くらい来るのか」 ……森田はどう思う? ……思うに、高島平四葉は脆く、暗殺やスナイプで殺しうる、と思われます。いま強権発動して勝手に信用を落とす必要は感じられません。 …………ですが、僭越ですが私としては ……僭越だ。私を誰だと思っている。 …………自害いたします。 (ウッと息が詰まる音。砂袋が倒れる音) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 三十分後。 雪がこんもりと持ち上がり、日を遮り、人影が立つ。 いや、それは人影とは呼べない。 足があり、胴があり、肩があり、腕があり。 だが首がない。 頸から上が、スッキリ、ない。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ……し、し、し、審議長! ……実審を呼べ。 ……おります。 ……あれは? 聖槍院の死体が動いているようだが? ……ええ、いまでも確かに心臓は動いています。 ……首がないぞ! 一体どういうことなんだ! ……雪に埋もれていた拍子に、ぽろっと取れてしまったのでしょう。 ……んなことがあり得るか! ……みなさま誤解なさっておられますが、私は、聖槍院九鈴が敗退したと宣言した覚えはございません。彼女はまだ「生存」です。心臓は動いていますし、脈もありますし、脳みそ――思考自体もあるようです。肉体で考えいるのでしょうか、魂(ファントム)があるのでしょうか。私は、魂がある、と推測しています。 ……魂? ……はい。彼女の能力『タフグリップ』は固定です。背中のトングで、肉体と魂を固定しているのでしょう。そう考えれば理屈は通ります。 ……なっ、そんな……。 ……そうか。ならば試合開始直後の、 ……洞窟への体当たりでおそらく死んでいますね。もっとも、以前から――彼女の言う核体験の時から、いえ、より前から死んでいる可能性もあります。すでに死んでいるために、首がとれた程度で死亡していると裁定するわけにはいかないのです。 ……奴を殺すには――殺すと判断されるには、トングを破壊するしかないのか? ……破壊も不可能(むつかしい)でしょう。私はボディチェックで彼女の身体に『触れ』ました。彼女のトング帷子は三枚重ねになっており、そしておそらく、背中の一部にトングを埋め込んでいる――あるいは肉体をトングの一部だと認識して、パズルのように組み合わせて、お互いがお互いを補強しあっています。首は落ちてしまいましたが、固定されている肩から腰は、彼女が望むままに「保持」され続けるでしょう。決して損なわれずに。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― むにゃむにゃと眠る四葉。 その頸に容赦ないトング(ギロチン)が落ちる! ……。 寝返りをうつように、ころりと四葉の首が、どんぐりころころ。 「勝者、なんと、首なし聖槍院九鈴、決着ゥウウ!」 モニタで見ている会場の全員が、悲鳴であれ歓声であれ(笑)であれ絶叫であれ、なにか声を、なにか感情を、吐き出さずには入られなかった。 会場自体が喚くように揺れ響き、肝心の、中継の音すら聞こえないほどの轟音。 「……」 会場は一瞬で静まり返る。 勝者である聖槍院九鈴、 彼女は、四葉の頭を――――――――――――――――自分の首にタフグリップ! ■勝者:聖槍院九鈴(?) 億の太陽が「彼女」の怪笑を照らす。 このページのトップに戻る|トップページに戻る